ADSB アンダーソン ベルによる韓国と北欧デザインの融合

スポンサーリンク

AFFECTUS No.523

近年次々に注目ブランドを輩出する韓国。韓国モードを代表する「ウェルダン(We11done)」を筆頭に、20年以上のキャリアを誇る「ウーン ヨン ミ(Wooyoungmi)」、力強いダークウェアを発表する「システム(System)」、サイバーなストリートウェアが魅力の「ポスト アーカイブ ファクション(Post Archive Faction)」、今年2024年の「LVMHプライズ」セミファイナリストに選出された「ジヨンキム(Jiyongkim)」など、いくつもの韓国ブランドが世界のファッションシーンに登場している。

今回取り挙げる韓国ブランドは、その名前を聞くとヨーロッパのブランドに思えるかもしれない。「ADSB アンダーソン ベル(Anderson Bell、以下アンダーソン ベル)」は、北欧デザインを韓国の視点から解釈するソウル発のブランドだ。この一風変わったブランドコンセプトを聞くと、疑問がわく。「韓国的な視点とはどのようなものなのか?」と。だが、まずはその前に「アンダーソン ベル」の成り立ちから触れていこう。

ブランドの創設者でありクリエイティブ・ディレクターを務めるのが、キム・ドフン(Kim Dohun)。ドフンはファッション教育とは関係ない大学で学んでいたが、20歳の時にファッション学科のある大学へと移り、本格的にファッションを学ぶ。大学卒業後、韓国のファッションブランドで1年間インターンとして経験したのち、2014年に「アンダーソン ベル」を立ち上げた。

ブランド名は、スウェーデンでは典型的な名字である「アンダーソン」と、韓国の伝統的な寺院にある鐘を表す「ベル」を組み合わせたものである。

ドフンは、対極の要素を組み合わせた時に起こる火花、思いがけない美しさが「アンダーソン ベル」の美学だと語っている。ドフンが北欧デザインに惹かれたのは、初めてヨーロッパを旅して訪れた国がスウェーデンだったことに起因していた。ソウルがスピーディで賑やかな都市だったに対して、ドフンにはスウェーデンがソウルとは正反対の要素を持つと感じられ、ソウルに帰国後、ヨーロッパ旅行で受けた影響を韓国的な視点から新しいものを作ることに挑む。

ドフンが着想を得るのは、北欧デザインだけではない。自身が好む1960年代から1990年代のロックミュージックからも影響を受け、西洋のカルチャーと韓国の視点を衝突させることに強い興味を抱いている。

ここで先述の疑問に戻ろう。「韓国的な視点とは何か?」という疑問である。ブランドサイトやいくつかのインタビュー記事を調べたのだが、ドフンが韓国的な視点について具体的に語っているものは発見できなかった。そこで、「アンダーソン ベル」のコレクションを見ることで、韓国の視点とは何かを読み解いていきたい。

一般的に北欧デザインといえばシンプルで、色使いはホワイト・ベージュなど柔らかく優しい色が主役のクリーンなものだ。「アンダーソン ベル」のコレクションに、北欧デザインの特徴にはない要素が見られたなら、その要素こそがドフンが捉えた韓国的視点になるだろう。

まずは直近に発表された2024AWコレクションを見ていこう。

最新コレクションは、ミリタリーとアウトドアをベースに、ギャザーやドローストリングによって、生地を手繰り寄せてボリュームアップさせたフォルムが目立ち、デニム&チェック、ツィード・チェック・シャギーと、異なる素材を2種類3種類とミックスさせるトラディショナルなジャケットやコートも登場する。

1点1点のアイテムも切り替えが多用されて、服の構造であるパターンが細かい。素材加工は、ひび割れのクラック加工風のレザー、色褪せたデニムなど、経年変化の風合いに焦点を当てた手法が多い。また、ウィメンズのルックでは、鳩目に紐を通す構造、Y字型にカットしたヘムラインなど、コルセットの代表的ディテールを取り入れたアイテムが登場し、ランジェリー要素も特徴的だ。

様々なファッションのアイテムと歴史が混合した、ストリートでありクラシックなアンダーグラウンド感満載のスタイル。これが2024AWコレクションの印象である。同じ文脈に属するブランドとなると、グレン・マーティンスの「Y/プロジェクト(Y/Project)」が浮かび上がった。

ディテールと素材が重層的に組み合わさるダークトーンのコレクションに、クリーンな北欧デザインの要素は皆無と言っていいのだが、服のシルエットが比較的ベーシックに近い点が、スカンジナビア発の伝統的ファッションの匂いを感じさせる。

同じように重層的なアプローチを見せるパリで活躍する日本ブランドなら、服の形そのものがもっと大胆で複雑であることが多い。近年の「サカイ(Sacai)」はドッキングの手法が抑えられているとはいえ、服の形そのものが特徴的だ。一方、「アンダーソン ベル」にはそこまでの特徴的造形が多いわけではなく、服の輪郭はベーシックに近づけ、服の内部で大胆な挑戦を施す。

他のシーズンの「アンダーソン ベル」も確認して浮かんだキーワードが「技法」だった。様々な技法を組み合わせて服を作り上げる。ただし、綺麗に整えるではなく、雑味と迫力を持って仕上げる。技法を幾重にも組み合わせる手法が、韓国的な視点なのではないか。

先ほど触れたパリで活躍する日本のファッションブランドにも同様の特徴は見られるが、「アンダーソン ベル」が披露する技法のコンビネーションは、日本ブランドより幾分シンプルだ。

服の輪郭はベーシックに近づけ、服の内部で技法の組み合わせで重層的に見せる。この手法を念頭に置いて韓国ブランドを見ると、ディテールを緻密に作り込む「ポスト アーカイブ ファクション」や太陽の光を染色技法に用いる「ジヨンキム」といった韓国ブランドにも感じられた特徴であった。

現在の「アンダーソン ベル」は、「北欧デザインを韓国の視点から解釈する」というブランドコンセプトから発展している。インスピレーションは、様々な文化であり歴史。北欧と韓国の融合は、ボーダレスに進化していく。

〈了〉

スポンサーリンク