ノワール ケイ ニノミヤが隠し持っていた世界観

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AFFECTUS No.526

ブランド名に使用されている「ノワール(noir)」には、フランス語で「黒」の意味があるとおり、これまで装飾性高いアヴァンギャルドな黒い服を発表してきた「ノワール ケイ ニノミヤ(Noir Kei Ninomiya)」。だが、今年3月に発表された2024AWコレクションは新しい世界観が披露されていた。

ファーストルックは、モデルの表情が判別できないほどに捻れたワイヤーが上半身を覆い隠す。この独特な形状は実に「ノワール ケイ ニノミヤ」らしいフォルムデザインだが、ワイヤーの色は赤・黄・緑・青と色とりどりのマルチカラー。足元を見ると蛍光色のグリーンに、黄色と赤のカラーコンビネーションがサイケデリックなスニーカーが視界に飛び込んでくる。

このスニーカーはスポーツブランド「リーボック(Reebok)」を代表するスニーカー、「インスタポンプフューリー(instapump fury)」とのコラボレーションだった。色彩感覚がこれまでになくバリエーション豊かなだけでなく、ポップな方向性に振られていたことに驚くのだが、まだ驚きは終わらない。

Look4では、白いチュール素材のトップスに赤・青・緑・黄のリングを取り付けたトップス、チュールの黄色いフレアスカート、ヌードカラーのソックスと黄色 x 赤のインスタポンプフューリーが登場し、全体のシルエットとイメージがガーリーファッションに通じるものだった。ルックから膨らんだ想像はさらに加速し、原宿の女の子たちがモードファッションを着用して、パリのランウェイを歩くイメージにまで発展した。

原宿ガールとモードの邂逅は以降も続くが、今度は幻想性を帯びてくる。

ワンピースのスカート部分は虹色に染まり、蚕の繭のように膨らむ。「ウルトラマン」に登場する怪獣ピグモンを連想させる、両肩が異様に盛り上がったフォルムのコートは、甘いトーンのマルチカラーで装飾されており、ショー前半で登場したルックは、ファンタジー世界をファッショナブルに暮らす女の子のようであった。

ショーが中盤に差し掛かると、様相が一変する。今度はチェック素材がメインのルックが次々に登場し、女性モデルたちは髪の毛を逆立て、「ヴィヴィアン ウエストウッド(Vivienne Westwood)」と同様にパンキッシュ。

その後、黒いチューブが生命を持ったように身体に畝って巻きついたフォルム、マクラメ編みの黒いワンピース、オリーブ色のキルティングを用いたアウトドアテイストのトップス・ロングベスト・スカートが登場し、再び「ノワール ケイ ニノミヤ」ならではの歪さが姿を表す。

そしてショーは終盤を迎え、またまた世界が変貌する。今度は例えるなら、カラフルな文明ファッションだ。インド・エジプト・中国、今から数千年も時を遡った時代のファッションが色彩を帯びてサイケなカラーリングで蘇った。それだけではない。居場所不明の近未来世界の礼装とも言うべきドレスも現れ、コレクションは時間も文化も超越していく。

しかし、壮大なコレクションにかかわらず、足元は常にソックスと1990年代的スニーカーが組み合わされ、少女性が挟み込まれている。まさにカオスでポップなコレクションと呼べるものだ。

川久保玲のアヴァンギャルドはいつだってシリアスだ。私はこれまで二宮啓のアヴァンギャルドも、川久保と同じシリアスな印象を抱いていた。二宮が発表してきた黒に染まった異形のフォルムは確かに驚くべきものだが、川久保の後を追うもので、川久保を超える要素は感じられずにいた。

しかし、この2024AWコレクションで印象が変わる。二宮には川久保とはまた違った才能があったのだ。ポップでガーリー、サイケでドラマティック。未来も過去も現代もファッショナブルでクールに装う女の子。こんな世界観を、二宮は隠し持っていた。

秘められた感性を解放し、2024AWコレクションの世界線を突き進んでいくなら、偉大なる師はまったく違うアヴァンギャルドを築きあげるのではないか。「ノワール ケイ ニノミヤ」の新しい可能性が、今始まった。

〈了〉

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