ショーレポート Children of the discordance 2025SS

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最近、以前よりも増してストリートウェアに惹かれる。なぜなのかと改めて考えてみると、デザイナーが体験してきたカルチャーが垣間見える体験の面白さが、ストリートウェアに惹かれる理由に思えた。上質な素材をシンプルに仕立てた服は好きだが、今の私はそういう服に物足りなさを覚えてしまう。

どうやら、今の私は服だけを見たいわけではないようだ。コレクションを通して、そのデザイナーが何に夢中になり、どんな影響を受けてきたのか、デザイナーがどんな人間なのかが感じられるコレクションに面白さを感じる。見ているだけで心高鳴るクールなカッティング、見ても触っても驚いてしまうオリジナル素材、鮮やかで大胆なカラーパレットは確かに面白いのだが、どうもそれらを見ているだけでは満足できない状態になっている。

いよいよ2025SSシーズンが始まった。6月6日、「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)」2025SSコレクションのショーを見てきたので、本日はショーレポートをお送りしたい。ここからは、私がショーを見て感じたままのことをありのままに語っていきたいと思う。

会場となったのは、都営三田線の白金台駅近くにある港区郷土歴史館。昭和建築の香りが漂う「旧公衆衛生院」を背にして、モデルたちは庭園を歩いていく。2025SSコレクションの中で最も私が惹かれた服は、漫画・アニメ映画『AKIRA』のヴィンテージTシャツをリメイクした長袖の白いTシャツだった。

「ああ、いいな」

『AKIRA』の1990年代のTシャツを解体再構築したというルックを見るなり、私は心の中でそう呟いていた。

私は『AKIRA』が特別好きというわけではなかった。正直に言えば、原作は読んだことがないし、映画も観たことはあるが、自分の趣向とは合わずエンディングまでは観ていない。それでも『AKIRA』をグラフィックに用いた白いTシャツが、目の前を通り過ぎた時にカッコよく見えたのだ。私の趣向を超えたカッコよさを感じた瞬間だった。

そんなふうに感じた理由は、きっとデザイナーである志鎌英明の好きなカルチャーを感じられたからだろう。志鎌英明の好きなカルチャーが、何の変化球も施さず直球で表現された服に私の心は揺れた。自分の好きなものは隠さない姿勢にモードを感じたのだった。

バンダナを用いたアイテム、ライダースやデニムジャケットなど、「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」の象徴であるデザインやスタイルは登場したが、それらのどれよりも、私は『AKIRA』のトップスに惹かれる。

『AKIRA』の次に惹かれた服が、スポーツブランド「アンブロ(UMBRO)」のウェアを用いた、サッカーを感じさせるアイテムだ。志鎌はサッカーも愛する人間だった。

これまで訪れた展示会では、昔のサッカーのユニフォームをリメイクしたアイテムがラックに掛かっていた。私が目をとめてしまうのは、1990年代のマンチェスター・ユナイテッド(Manchester United)の赤いシャツだ。右サイドからデビッド・ベッカム(David Beckham)が美しいフォームから悪魔のクロスを上げ、左サイドをライアン・ギグス(Ryan Giggs)が驚くべきスピードのドリブルで切り裂く。テレビを観ていて熱中したシーンが蘇り、志鎌の体験したカルチャーに引き込まれていく。

『AKIRA』とサッカー、志鎌の愛するカルチャーがストレートに打ち出される。まさに私が見たかったストリートウェアがそこにあった。

では、そのほかのルックに興味がなかったのかというと、そんなことはない。ここ数シーズン、「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」の展示会を訪れ、実際に服を手に取って見続けて感じていたのは、シーズンを重ねるごとに洗練さが増してきたということだった。シンプルになった、もしくはクリーンになってきたと称するべきだろうか。

もちろん、「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」は一般的なシンプルな服、クリーンな服とはまったくもって違う。グラフィックや刺繍を用いた装飾性高い服が、このブランドの持ち味だ。しかし、それでも近年の「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」に、私はクリーンさを感じていた。同じように2025SSコレクションを見てもクリーンさを感じだけでなく、さらに洗練された印象を覚えた。

クリーンなムードを持つまでに進化し、デザイナーが体験したカルチャーが迫ってくる。夜の庭園を歩くモデルたちを見ていると、私は1990年代の「ラフ・シモンズ(Raf Simons)」を思い出した。もちろん、カジュアルなストリートウェアが基盤の「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」と、ブリティッシュトラッドやアメリカントラッドが基盤の「ラフ・シモンズ」とではデザインが異なる。

だが、当時の「ラフ・シモンズ」はデザイナーであるシモンズの愛するカルチャーがストレートに打ち出されていた。ロックを通して男の繊細さをエレガンスとして表現したコレクションには、痺れるしかなかった。

志鎌もシモンズと同様に、自分の愛するカルチャーをストレートに打ち出した。その姿勢が、私にはシモンズと重なったように見えたからこそ、1990年代の「ラフ・シモンズ」が浮かんできたのだろう。

私がモードシーンで見たいのは服だけではない。デザイナーが体験し、愛したカルチャーも見たい。それこそがコレクションだ。自分をさらけ出した志鎌と「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」のおかげで、私にとっての2025SSシーズンは順調な滑り出しを見せた。

Official Website:childrenofthediscordance.com
Instagram:@children_of_the_discordance

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