クレイグ グリーンはポロシャツがいい

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AFFECTUS No.532

「クレイグ グリーン(Craig Green)」のコレクションには常に造形の驚きがある。ブランドを代表するフォルムデザインと言えば、建築の骨組みを彷彿させるダイナミックな形だ。グリーンはそんな異端のフォルムを、造形的にはウィメンズより保守的なメンズで発表するのだから、インパクトはいっそう強くなる。

久しぶりにショーを開催した2025SSコレクションにも、グリーンらしいフォルムデザインが発表された。だが、ルックを見ていくと最も目を惹いたのはシンプルな服だった。「フレッド ペリー(Fred Perry)」とのコラボレーションで製作された黒いポロシャツは、いたってベーシック。この黒いトップスを語るのに、「驚き」、「想像を超えた」、「アヴァンギャルド」などという表現は無用だ。

パンツのシルエットが心憎い。ウェストにタックを入れたボトムは、渡り幅が広く作られ、膝下から裾に向かってテーパードする。黒い生地のパンツは、コンパクトな量感のモード化したボンタン(ヤンキーが穿くズボン)とも表現できる。

このルックは、腰にレザーベルトを何重にも巻いてコルセット状のシルエットを作り出しているが、ポロシャツ&パンツのシンプルながらも絶妙なバランスのシルエットの方に目が奪われてしまう。

2025SSコレクションで注目すべきアイテムが、もう一つある。ビッグサイズに作られたチェック柄のハンカチーフだ。四角形の真ん中には、首を通すスクウェアな穴が開いたタイプや、ポロシャツの襟型に作られたタイプもあり、モデルはハンカチーフの穴から首を通してベーシックなシャツの上に重ね着する。

ポンチョ的アイテムには、フォルム以外にも特徴があった。テキスタイルの表面には、朴訥した雰囲気のグラフィックが見える。トラックやシャベルカーといった工事車両が、案内記号のピクトグラムと同様のシンプルなタッチで描かれ、水色やピンクの生地がほのぼのとした雰囲気を強める。絵本を見る体験を呼び起こすアイテムに、シックなシャツとトラウザーズを合わせ、服と服が生むギャップを心地よいものにする。

今回のコレクションで改めて実感したのは、「クレイグ グリーン」はシンプルに作った服の方が魅力だということ。2025SSコレクションでも、ひまわりの花や青空の風景を織物で製作したアートピースが発表され、「クレイグ グリーン」のダイナミズムは健在だった。

ただ、フィナーレを飾った芸術的なフリンジワンピースよりも、私は先述のハンカチーフやポロシャツに心が揺れた。グリーンはボリュームのバランスを見極めるのがうまい。仮に安価なシーチングで作ったとしても、グリーンのデザインしたシャツには目がとまってしまうのではないか。

ファッション界がグリーンに求めるのは、いわゆるアヴァンギャルドなメンズウェアなのだろう。けれども私が見たいのは、グリーンが大胆さには目も向けず取り組むベーシックウェアだった。

時折、アヴァンギャルドな精神を持つデザイナーが作るシンプルな服が見たくなる。

「川久保例が作るミニマリズムとは、どんな服なのか」。

そんな想像をしてしまうのだ。

アヴァンギャルなデザイナーが作るミニマリズムは過去にあった。それはヘルムート・ラング(Helmut Lang)のコレクションだ。ラングの精神はミニマリズムではない。マインドは前衛的で、手法はミニマリズムを好むデザイナーがラングだ。

グリーンがミニマルな手法でコレクションを製作したら、建築の構造を模したウェアよりもインパクトのあるデザインが誕生するのではないか。そう思わせる魅力が、「クレイグ・グリーン」のポロシャツにはある。

〈了〉

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