2025年春夏のオーラリー は爽快で清涼

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AFFECTUS No.534

スーツが薄手のコットンシャツとパンツのように軽やか。春の暖かさも、夏の暑さも快適にする服。岩井良太の「オーラリー(Auralee)」は、爽快で清涼な世界を究極に突き詰め、パリモードで存在感を高める。

毎シーズン、岩井が 並々ならぬ情熱を注ぐ素材はどれも実に快適そうだ。ネクタイを巻いたモデルの姿に感じるのは、パジャマを着ているような寛ぎ。そんなリラックスムードを打ち出しているのは、間違いなく軽量感漂う生地だ。

そして明るく朗らかなカラーパレットが、春の心地よさを運ぶ。ベージュやホワイトのベーシックカラーに、ライムグリーン・ピンク・ターコイズ・レッドが柔らかに挟み込まれ、目に優しい色がスタイルを優しく見せる。

「バラクータ(Baracuta)」の名作「G9」を彷彿させるブルゾンといったように、発表されたアイテムもベーシックの王道をいくものばかり。もちろん、服のフォルムもシンプルで凛々しく、「複雑」や「大胆」といった表現とは距離を置く。

スタイリングも気持ちいい。綺麗に着こなしたシックな装いは、本来なら緊張感を纏ってもおかしくない。しかし、「オーラリー」を着るモデルたちに張り詰めた空気はいっさいない。シャツに袖を通し、襟元にネクタイを巻き、スタンドカラーのブルゾンを着用した男性モデルは、ボトムにワイドシルエットのショーツを穿き、足元はベージュのソックスと黒い革靴にまとめていた。モデルの佇まいを柔らかにするのは、クラシックともカジュアルとも言える曖昧さ。

ライトブルー&イエローのチャックシャツを着て、首元にはクリーム色のニットを無造作に巻きつける。グリーン系のシャツとニットをレイヤードしたルックは、シャツの裾をニットの裾下から覗かせる。シンプルで綺麗な着こなしの中に抜けを作り、スタイルをソフトに見せる手法が心にくい。

ショー会場となったのは、18世紀に建てられ、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の別邸として使用されていたホテル・デ・メゾン(Hôtel des Maisons)だが、内装に特別な演出は見られず、並べられた椅子の間をモデルたちは歩くだけ。最新コレクションを着て歩く姿は、早朝の散歩あるいは昼下がりの散歩を思わせる穏やかさだ。

「オーラリー」の2025SSコレクションは涼しげで軽やかだが、それらの感覚を作り上げるための手法には一部の隙もない。色展開・素材感・アイテム・シルエット・スタイリング、そしてショーの演出と、コレクションを構成する要素すべてが春夏シーズンの気持ちよさを具現化するため、徹底的に作り込まれていた。

あまりにシンプルな服を見れば、「オーラリー」にパリモードの舞台はミスマッチに映るだろう。しかし、岩井は爽快さと清涼感を突き詰め、見ているだけで気持ちよさを起こすレベルにまで高めた。モードを体現するために、インパクトは必要なかった。一つのテイストを究極に磨き上げたコレクションは、パリでスポットライトを浴びるのだ。

服を着るのではなく、心地よさを着る。「オーラリー」に袖を通した先に待っているのは、一瞬にして心拍数を上げる興奮とは別の、静かで染み入るような快感だ。

〈了〉

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