ジェームズ・ディーンとサカイの邂逅

AFFECTUS No.374

サイドをタイトに撫で付け、前髪をかきあげたリーゼント、逆台形で角が丸みを帯びたウェリントン型の黒いセルフレーム、ハードな黒いライダースジャケット、白いプリントTシャツ、そしてワイルドなシルエットのパンツ。ファーストルックの出立ちからして、2025SSコレクションの「サカイ(Sacai)」は何か違う。

「サカイ」のコレクションを見るたびに、服と服のドッキングを実現する複雑かつ重層的なパターン、素材のミックスと服の構造そのものに意識が向くことが多かった。だが、今回は服ではなくスタイルに惹かれてしまう。「サカイ」のコレクションを見ていて、これほどスタイルに強く惹かれた経験は初めてだった。

パリメンズのファッションウィークで発表された今コレクションは、昨今の傾向であるメンズとウィメンズの同時発表。2025SSコレクションで感じたスタイルの魅力は、ウィメンズよりもメンズの方が勝っている。

ウィメンズルックもメンズルックと同種のアメリカンカジュアルなのだが、角張らせたショルダーの形など、造形面で従来の「サカイ」らしさが発揮されていた。一方、メンズルックはサイドを大きく横に張り出したパンツといった具合に、造形デザインも散見されたが、これまでのコレクションよりも形のパワーは抑制され、多くのメンズルックがシンプルに作られている。それゆえ、メンズは服の構造よりもスタイルに目が向いていく。

白いTシャツの上から、柄がふんだんにプリントされた開襟衿の半袖シャツを着用し、ルーズシルエットのパンツを穿く。色褪せたブルーデニムのGジャンとジーンズを組み合わせたデニムオンデニムオンスタイル。真っ赤なレザーのバイカーズジャケットを羽織る男性モデルは、黒いパンツのポケットに両手を入れてランウェイを歩く。彼は赤いアウターの下に白いプリントTシャツを着用している。そのTシャツにプリントされていたのは、夭折したアメリカの映画スターの顔だった。

やや上目遣いの鋭い視線の表情に、見覚えのある人はきっと多いだろう。フェイスプリントの正体はジェームズ・ディーン(James Dean)。2025SSコレクションの「サカイ」はディーンをテーマに、1950年代のアメリカンカジュアルを調理する。

1955年9月30日、ディーンは愛車のポルシェ550スパイダーを運転中に事故死する。享年24歳。この時、初主演作の映画が公開されてから、わずか半年という短さだった。出演した映画は3本(『エデンの東』、『理由なき反抗』、『ジャイアンツ』)だけ。しかもディーンが存命中に公開された映画は『エデンの東』(アメリカ公開:1955年3月)のみで、他の2作品は彼の死後に公開された(『理由なき反抗』1955年10月公開、『ジャイアンツ』1956年10月公開)。

実績だけを見れば、映画俳優としては乏しいと思われるかもしれない。しかし、ディーンは死後から70年近く経過した今も、鮮烈な存在感を放つ伝説の映画スターだ。その理由はディーンが見せた演技にある。『エデンの東』の原作者でありノーベル文学賞受賞者(1962年受賞)のアメリカ人小説家、ジョン・スタインベック(John Steinbeck)はディーンを見て、『エデンの東』の監督を務めたエリア・カザン(Elia Kazan)にこう述べていた。

「気難しい性格で、反抗的かつ感情的でありながら同時に冷静な一面も持ち合わせており、シニックで傷つきやすい。彼を是非、主演のケイレブ・トラスク役に起用してほしい」PORSCHE 「反抗する若者たち」より

そして、現在もディーンをスーパースターとして知らしめるのは、ファッションアイコンとしての魅力だ。ディーンが映画内で披露したファッションは、どれも心を揺さぶる。スタイル自体は派手ではない。彼はカジュアルを好んで着ていた。『理由なき反抗』で披露された赤いハリントンジャケット、白いTシャツ、ジーンズのスタイルは究極のカジュアルスタイルとして、永遠に語り継がれるに違いない。

服そのものはシンプルで目立つものではないのに、ディーンの服装が時代を超えて人々を魅了するのはスタイリングの妙ではないだろうか。メンズの王道にして王様のスーツをはじめとしたクラシックとは対極のラフな装い。ボタンを外したシャツの着こなし一つにも、色気が漂う。カジュアルな服を崩して着る様子には、不良というワードが浮かぶ。だが一方で、だらし無さは皆無。むしろ上品でもあり、その気品はスーツに勝るとも劣らない。

歳月がどれだけ経過しても色褪せないディーンの1950年代アメリカンカジュアルと、ハイブリッドデザインが唯一無二の個性を作る「サカイ」の融合。それが2025SSコレクションだ。今回発表されたルックは、いつもよりシンプルに収まったメンズウェアであっても、「サカイ」らしいパターンワークのアイテムは見られる。だが、私にとって最も輝いて見えたのはファーストルックのように、シンプルに仕上げられたルックだった。

阿部千登勢の造形センスが、複雑さではなくシンプルな方向性に発揮されたライダースジャケットやワイドパンツは、絶妙なボリュームを披露する。新しい形を作るのではなく、美しいバランスを、しかも現代の感性に適合する美しいバランスを見出すことに、阿部千登勢の才能が発揮されたディーンのスタイルは、モードなジェームズ・ディーンへと生まれ変わっていた。

「サカイ」が映画スターのファッションをテーマに、コレクションを製作することは珍しいように思う。発表されたルックを眺めていたら、「サカイ」の新しい個性と出会えた嬉しさがあふれてきた。ジェームズ・ディーンと「サカイ」。それはまさに邂逅と言える、出色のコレクション。スターの光はいっそう輝く。

〈了〉

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