メンズウェアはOAMCとジル サンダーが眩しい

AFFECTUS No.375

2024年6月19日、「OAMC(オーエーエムシー)」はブランドの創業者であり、クリエイティブ・ディレクターを務めるルーク・メイヤー(Luke Meier)の退任を発表した。ルークによる最後のコレクションは2024SSコレクションとなり、以降はデザインチームがコレクション製作を担っていき、ルークは一部のプロジェクトには関わり続ける。

退任の理由については明らかになっていないが、今後のルークは、妻のルーシー・メイヤー(Lucie Meier)と共同クリエイティブ・ディレクターを務める「ジル サンダー(Jil Sander)」の活動に注力すると思われる。

シグネチャーブランドで評価を上げたデザイナーが、ビッグブランドのディレクターに就任すると、シグネチャーブランドを終了するケースは珍しくない。一時期、その動きが顕著で、私は正直好きになれなかった。シグネチャーブランドにもファンがいるはず。そのファンの支えがあったからこそ、シグネチャーブランドの人気が高まり、デザイナーの評価が高まったのではないか。

たとえ、ビッグブランドでそのデザイナーの最新コレクションを体験できるにしても、デザイナーの世界を純度100%で表現するシグネチャーとは違うものになるはず。ビッグブランドのディレクターに就任すると同時に、シグネチャーブランドを終了することはファンを失望させはしないか。そんな疑問を感じていた。

ただし、今回のルークの退任はそのようなケースとは異なる。ルークがルーシーと共に「ジル サンダー」のディレクターに就任したのは2017年。ルークは、「ジル サンダー」のディレクターに就任後、約7年が経過してからシグネチャーブランドを離れた。しかも、今回は「OAMC」を終了させるわけではなくブランドを継続させ、ディレクター職を退任するだけ。

私はルークのメンズデザインに関しては、「ジル サンダー」よりも「OAMC」が好きだったので、このニュースはたしかに残念だったが、ビッグブランドはメインに加えてプレも発表する昨今のコレクション発表数増加の傾向を鑑みれば、納得感もある。二つのブランドを継続させることは、私たちが思う以上にデザイナーにとって負担が大きいのだろう。

とはいえ、やはり寂しいの事実だ。ルークが手がける最後の「OAMC」となった2024SSコレクションは、カリグラフィー的な作品が知られる20世紀を代表するアメリカ人アーティスト、サイ・トゥオンブリー(Cy Twombly)がテーマで、一見するとコレクションのテーマに関心が向いてしまうが、ラストコレクションはルークのメンズデザインの魅力が詰まったものだった。

私にとってルークのメンズデザイン最大の魅力は、地味であることだ。個性を打ち出すファッションにおいて「地味」という言葉にはネガティブな印象がある。しかしながら、誰もが人目を惹く大胆なファッションを望んでいるわけではない。そうかといって、ただシンプルなだけでは満足できない。絶妙なバランスのアクセントが入った地味な服。そんな服を望む男性たちのための服が、私にとっての「OAMC」だった。

2024SSコレクションの「OAMC」は、これまでと同じで服そのものは決して派手ではない。驚くパターンやディテールがあるわけでもなく、地味な仕上がりだ。だが、その地味な服が私にはとびっきりに輝いて見える。

その光り輝く地味さは、「ジル サンダー」のメンズラインにも引き継がれている。ただし、常にというわけではない。「ジル サンダー」のメンズラインは、時折ストリート出身のルークの個性が強く滲み出すシーズンがあり、6月に発表された「ジル サンダー」2024プレフォールコレクションもそうだった。

わずか18ルックの発表という、非常に小規模なコレクションだが、発表数以上の魅力が詰まったメンズウェアだ。色はブラック・グレー・ホワイトが主軸となり、時折パープルや淡いミントが挟み込まれる。シャツやテーラードジャケットなどのクラシカルな服は、決してルーズなシルエットではないのだが洗練とは言い難い形に仕上がっている。だが、それが逆に魅力で、今回(に限らないが)のOAMCのフォルムを形容する言葉を割り当てるなら、やはり「ストリート」になるだろう。

シャツは第一ボタンまで留めて凛々しく着こなす。だけど、どこかストリート。ハーフパンツと合わせることで、シックなコートやニットもやはりストリートに映る。服の形そのものは凡庸と言えるだろう。先述のように明る色が使用され、プリント生地も登場するのだが、その数は少ない。創業者であるジル・サンダーが確立したスタイルに通じるクリーンさはあっても、2024プレフォールコレクションは彼女の服にはなかった野暮な空気感が漂う。

ルークはジャケットなどのクラシックウェアを手がけても、ワークウェアのような雰囲気に仕上がる。それが実にいい。「OAMC」のルークを見ることは叶わなくなったが、ルークのセンスは「ジル サンダー」で今後も見ることができる。しかも、シグネチャーブランドを見るように自身の世界を強めに構成しながら、「ジル サンダー」の世界を創り上げる絶妙の配分で。今後も、ルーク・メイヤーが手がけるメンズウェアから目が離せない。

〈了〉

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