展示会レポート Maison Mihara Yasuhiro 2025SS

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ビッグトレンドがない。それが今という時代だろう。一つのブランドの一つのスタイルが、驚異的な勢いで市場を侵食し、消費者の服装に巨大な影響力を及ぼす。ファッション界では、これまで何度も繰り返し起きてきた現象だ。しかし、現在、そのような大波は起きていない。ノームコアが現れて以降、新しいスタイルを「〜コア」と形容する新しいファッションが現れているが、かつての「ヴェトモン(Vetements)」ほどの波及力ではない。

たしかに現在は、世界中を巻き込む大きなトレンドはない。だが、2025SSシーズンのメンズ・ファッションウィークを観察していると、一つの気になる傾向が見えた。トレンドと言うには、まだ数は少ないかもしれないが、「目に見えないトレンド」と呼べるものが感じられた。

2025SSシーズンのいくつかのコレクションを見ていると、ブランドが持つ特徴が以前よりもパワーアップしている印象を受ける。たとえば、「迫力あるフォルムが武器のブランドなら、フォルムの迫力がさらに増す」、「プリントが武器のブランドなら、プリントのバリエーションとデザイン性がさらに強化される」といった具合に。

ブランドがそれぞれの個性をこれまでよりも磨き上げたため、コレクションは個性化が促進される。各ブランドの個性が尖るのだから、各ブランドのスタイルの見た目はバラバラで統一感がない。統一感がないために、トレンドとは認識できない。つまり、個性をさらに磨くという点で共通はしているのだが、発表されるスタイルは個性を磨いたために見た目は異なるというものだ。これが先ほど述べた「目に見えないトレンド」というものである。

近年、シーズンを重ねるごとに勢いを増す「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison Mihara Yasuhiro)」は、最新シーズンもブランドの個性をパワフルに表現した。

巨大すぎるほどに巨大なスーパービッグシルエットは健在。そして、ダメージにダメージが施されたデストロイな素材加工が、2025SSシーズンも徹底されている。現在の「メゾン ミハラヤスヒロ」を語る上で外すことのできない個性が、ラックを埋め尽くす。

服の破壊度は衰えることを知らない。真新しく綺麗に整えられた服は最大の罪であるが如く、デニムジャケットは破壊の限りが尽くされている。

まるで2着3着と、複数の服が一体化したようなドッキングのテクニックも冴え渡っていた。前から見ても後ろから見ても、デニムジャケットの前身頃。2着のデニムジャケットの前身頃を前後で一つに縫い合わせるという、シンプルながらもダイナミックなアイデアを披露した。

ニットは小さな穴がいたるところに空き、伸び切ったようにだらしなくラックにぶら下がっている。プリントを使うなら美しい花柄を。「メゾン ミハラヤスヒロ」にそんな精神はない。破壊と迫力こそがこのブランドの真骨頂。

ドッキングという手法は、現在のファッションデザインとしては珍しいものではない。ただし、複数の服を組み合わせ、濃厚濃密に作れた服はスポーティであったり、トラッドであったり、軽やかさや上品さを纏っていることが多かった。

翻って「メゾン ミハラヤスヒロ」は、グランジでストリート。徹底的にダメージを加えた服を超巨大のビッグシルエットで製作し、ドッキングの文脈に異なる流れを打ち込む。

それだけではない。モードにおけるストリートの文脈にも「メゾン ミハラヤスヒロ」は別の流れを切り拓く。モードシーンに登場したストリートウェアは、「メゾン ミハラヤスヒロ」ほど複雑で重層的なパターンワークは見せていない。もっとシンプルな構造で作られているものが大半だ。1着が、2着に3着に見えるデザインは従来のストリートウェアとは一線を画すものである。

パリで発表されたショーは、観客席に座っていた観客が突如カラオケを歌い出す演出があった。「メゾン ミハラヤスヒロ」のコレクションを見ていると、「フェスタ」という言葉が浮かび上がる。世相は決して明るいものではない。世の中の暗さを吹き飛ばそうとするお祭り感が、このブランドには宿っている。

スパンコールがいくつも取り付けられたアイテムは、賑やかな夜が似合う。現在人気の上質で飾り気のない、高級なシンプルウェア=クワイエット・ラグジュアリーのアンチテーゼにさえ思えてくる服たちだ。

最低限のモノで暮らすミニマルライフとは対極に、過剰に華美に暮らしたっていいじゃないか。どんな服装にどんな靴を合わそう。「メゾン ミハラヤスヒロ」なら足元の選択肢は豊富だ。

グランジでパワフルな個性をさらに磨き上げた「メゾン ミハラヤスヒロ」。三原康裕は「目に見えないトレンド」の最先端を進む。

Official Website:miharayasuhiro.jp
Instagram:@miharayasuhiro_official

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