アナザー アスペクトがダッドスタイルの文脈を更新

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AFFECTUS No.541

シンプルで綺麗なカジュアルウェアは、いつの時代になっても着たい。ただし、着たいのは洗練された綺麗さよりも、寛ぎを約束する力の抜けた綺麗さ。その需要を満たす服が、北欧の地デンマークから発信されている。ブランドの名は「アナザー アスペクト(Another Aspect)」。ストリートウェアとワークウェアのエッセンスを軽妙なバランスに仕立てたデニムシャツが、日曜日を心地よくする。

2019年、「アナザー アスペクト」はダニエル・ブルント(Daniel Brøndt)、アナス・ポールセン(Anders Poulsen)、ニコライ・トムセン(Nicolaj Thomsen)の3人によってコペンハーゲンで設立された。オーソドックスなジャケットやパンツは、リサイクル繊維、デッドストック生地、オーガニック素材を使用し、環境への負荷を考慮した服作りによって生産される。このようにサスティナブルな背景も重要なブランドコンセプトだが、「アナザー アスペクト」最大の魅力はやはり服そのもの。

コペンハーゲンブランドのデザインを語る前に、振り返りたい歴史がある。歴史と言うにはあまりに近年の出来事だが、2018年ごろからあるスタイルがトレンドを賑わした。それがダッド(dad、“お父さん”の意)と呼ばれるスタイルだ。発端は、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が指揮する「バレシンアガ(Balenciaga)」。現代ファッションのキングと言っても差し支えないヴァザリアは、「バレンシアガ」2018SSメンズコレクションで、驚きのスタイルを発表する。

驚きと言ってもヴァザリアが発表したコレクションは、想像を超えたフォルムや鮮やかなプリントなど、一目で強烈なインパクトを植え付ける服ではない。むしろ、その逆で、日曜日に父親が着るようなカジュアルで飾り気のない服がランウェイで披露されたのだった。

ダッドな服が、最先端ファッションの舞台に登場するとは想像もできなかった。ファッションとは、華やかで特別なもの。それがモードの世界では常識だった。しかし、ヴァザリアは華やかで特別でもない服には価値があると、常識にアンチテーゼを打ち込む。絶妙にボディラインを野暮ったく見せるシルエットは、これまでのモードとは対極の価値と言えた。

これまで価値がないと思われていたファッションが、ヴァザリアの手によって一躍トレンドの最前線へ浮上した。「クールに装わないことがカッコいい」。爆発的人気となったスニーカーTriple Sは、そんなメッセージが発信されているようで、人々を夢中にさせる。

「アナザー アスペクト」はダッドスタイルの文脈に連なるものだ。ブランドが目指したのは時間の経過に耐えられ、飽きられることのないスタイル。そこに到達するためのスタイルとしてたどり着いたのが、年配の男性の服装だった。数十年と長い歳月をかけて確立された彼らのスタイルは、とびっきりにカッコいいとは言えない。時代の最先端ファッションからは、ずれているかもしれない。しかし、トレンドがどう変わろうとも変わらない年配の男性たちが着る服こそ、「アナザー アスペクト」の目指すものであり、北欧伝統のクリーンさを注入して、ほんの少し洗練させる。

ボタンダウンシャツ、ポロシャツ、ジーンズといったメンズウェアの古典がコレクションの主役。色使いは地味、シルエットも凡庸で面白みはない。だけど、「アナザー アスペクト」のデニムオンデニムに白いTシャツを着た男性は、そこはかとなく美しい。

「バレンシアガ」のフォルムはボリューミーで、一目で野暮ったさが感じられたが、「アナザー アスペクト」は程よくスリムなフォルムに仕上げて、素材も色使いもオーソドックスに徹したことで、ダッドスタイルを洗練させた。もちろん、絶妙のダサさは残したままで。

おじさんと呼ばれる年齢になっても、ファッションを楽しみたい。だけど、イケイケのモードは今の自分には苦しいし、恥ずかしい。若いころに好きだったブランドは今だって好きだけど、もう着ることはできない。そんな切ない心情に応えてくれるのが「アナザー アスペクト」だ。ああ、悲しくも嬉しい。

マーケットの需要を満たす服であり、ダッドスタイルの文脈を更新する新しさを備えたストライプシャツに袖を通してみよう。

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