コレクションから多面的な要素を感じるのは、現代ファッションにおける一つの特徴である。クラシックでありながらSFワールドを展開し、スポーティな様子も顔をのぞかせる。このようなデザインをトレンドと称するには、いささか早いかもしれないが、無視できない兆候だ。
2021SSシーズンにデビューした「キタン(Quitan)」は、“文化の交歓(=bricolage)” を合言葉にものづくりを行う。「bricolage」とはフランス語で、計画的に準備されていない、その場その場の限られた「ありあわせの」道具と材料を用いてものをつくる手続きを指す(美術手帖「ブリコラージュ」より)。「キタン」のものづくりにおける姿勢は、ブリコラージュを体現したものであると同時にモダンなアプローチと言えよう。
「キタン」のデザイナー宮田 紗枝(Sae Victoria Miyata)は、アメリカのシアトルで生まれ、帰国後は日本国内を転々として育った。宮田の歩みが反映されたかのように、「キタン」のコレクションには様々な要素が入り混じる。植物を布に巻きつけて蒸しあげ、植物の色と形を転写して淡く儚げな染色を実現するバンドルダイ、上質な天然繊維を用いたオリジナル素材など、「キタン」のコレクションにはナチュラルという形容が最も合うのかもしれない。しかし、服の着想をワークウェアやミリタリーウェア、民族服からと異なるカテゴリーから得ており、一言でナチュラルとは表現できない、ポジティブな意味での雑味を備える。
異なるカテゴリーのファッション性が混じり合うキタンの特徴が、さらに花開いたと言えるのが2024AWコレクションだ。色使いと素材感はそのままに、スタイルが多面的な様相に変貌した。
ゆったりとした優しく柔らかなフォルム、チェック生地や表情ある素材感は、ストリートウェアのようにグラフィックプリントやロゴを使用しているわけではないのに、とてもグラフィカルだ。スタイルはナチュラルな装いがある一方で、チャックシャツの上にアノラック的アイテムを重ね、さらにその上からソフトな輪郭で着丈の短いジャケットを羽織り、ボトムは緩やかでありつつもスリムなパンツを穿く。ルールがあるようで自由に着こなす姿は、これまたどこかストリート的でもある。
素朴で朴訥とした装いの中に顔をのぞかせる、グラフィカルかつ自由な着こなし。ルックを見ていると、「ノスタルジックなストリート」という個性が見え始めた。ここで用いる「ストリート」は外観だけを指すわけではない。ノスタルジックな服をストリート的にスタイルを作り上げるファッションデザインもあるのではないか。それを実現したのが、「キタン」2024AWコレクションである。伝統の技法、ワークや民族服という服装史を彩るベーシックから生まれるコレクションは、新しい領域に足を踏み入れた。
Official Website:quitan.jp
Instagram:@quitan_official