展示会レポート Irenisa 2025SS

スポンサーリンク

7月某日、原宿駅から15分ほど歩くと住宅街に入り、駅前の喧騒が嘘なほど静かな場所に「イレニサ(Isrenisa)」のショールーム兼アトリエがあった。初のプレゼンテーション形式で発表された2025SSコレクション。目の前で歩くモデルたちが着ている服は、身体の上で布地が心地よさそうに泳いでいた。今回は展示会のレポートをお送りしたい。

クールな空間に並ぶ最新コレクションは、派手さや大胆さとは無縁の静けさを漂わせる。その印象は、2025SSコレクションをショーで見た際と同じだった。しかし、ラックに掛けられた服を手に取って見ていくと、ランウェイで見た印象から徐々に変わっていくのだった。

ブラック、グレー、ベージュと落ち着いた色とジャケットやパンツ、シャツといったメンズウェアの古典的アイテムが並ぶ様からは、昔ながらの紳士服という言葉を連想させるムードを感じた(2025SSコレクションは初めてのウィメンズも発表)。

シンプルでクリーンな服。ともすれば大人しい服。だが、吟味された素材、パターンワークの面白さ、細やかな気遣いを感じる縫製のクオリティと、服のフォルムは簡素な形ながらも服の構成要素の一つ一つが挑戦的で、印象は「昔ながらの紳士服」から「モードな紳士服」というものに転換した。

いくつかのアイテムを試着させてもらう。こちらのジャケットを着用して驚いたのは形の綺麗さ。肩パッドを入れたショルダーラインはまっすぐで美しく、身頃のフォルムも凛々しい。服の形でデザイン性を打ち出すのではなく、形のバランスで美しく仕上げることで、アイテムの存在感を高める。そんな玄人志向のアプローチが「イレニサ」の根本にある。

こちらのブルゾンも極めてオーソドックスなデザイン。しかし、緩やかで優しいボリュームが身体の上で端正な輪郭を描く。ブルゾンの下に着る服は、真っ白なTシャツでいいのではないか。シックなブルゾンの魅力を引き立てるのに、色と柄は必要ない。

ラックに並ぶ服が示す通りダークな色がコレクションの軸だが、今回は鮮やかなブルーがアクセントに使われている。ライトな青の生地で仕立てられたフード付きのコートが、2025SSコレクションの中で超私的ベスト「イレニサ」だった。

コートは袖を通してみると驚くほど軽く、シルエットは緩やかだがスレンダーな印象が先立つ。レーザーカットで作られたパンチングもいいアクセントを生む。何よりも魅力だったのは、やはりこの鮮やかなブルー。この青いコートさえ着れば、トップスもボトムもシンプルでいい。「イレニサ」の服は、スタイリングの想像力を掻き立てる。

ダブルのジャケットはピークドラペルが柔らかく折り返り、渋いグレーがとても涼やか。

オープンカラーシャツも目を惹く。コンパクトな襟と流麗なシルエットは洗練されている。だが、ここでも落ち着いた色彩とナチュラルな素材感の生地が、完全なアーバンテイストには振り切らない。夏の休暇を寛ぐのにふさわしい、軽やかで涼しげなシャツが完成していた。

渋さが際立つ服ばかりかと思えば、ユーモアを挟み込む。ニットはノスタルジックな柄を立体的に作り、シンプルなカーディガンにかわいらしい個性を添えた。

ショーでも印象的だった色褪せたデニムウェアも確認できた。インディゴブルーもいいが、このぐらいの色味のデニムの方が今は惹かれる(自分に似合うかどうかは別にして)。

そして、思った以上に惹かれたのがシューズだった。クラシックでありつつもカジュアル。緊張感を作っても、張り詰めた空気を逃す隙を作る。「イレニサ」は細部に気を配る。

特に一推しなのはスリッポン型のシューズ。普段、私はスニーカーしか履かないのだが、この靴を見た瞬間にクラシックとリラックスが両立する魅力を感じ、夏にスニーカー以外の靴を履くのもいいのではないかと、自分の価値観がアップデートされた。

「イレニサ」は、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」でパターンの経験を積んだ小林祐と、「サポート サーフェス(Support Surface)」で企画・生産・デザインの経験を積んだ安倍悠治によるデザイナーデュオが、2020AWシーズンにスタートさせたブランドだ。

コレクションには、映画や旅行からインスピレーションを得て製作されたというファンタジーはない。服を作ることが好きな二人の人間が、これまで培ってきた経験と技術を総動員し、今の自分たちが美しいと思う服を作るという姿勢が感じられてくる。

だが、決して単なるシンプルな服ではない。至る所で挑戦が見られる服である。現在、良質な素材をシンプルな服にデザインするブランドは多いが、「イレニサ」は少々異なる。モードの香りがささやかに漂うのが心憎く、非常に味わい深い。

素材は一見すると天然素材ばかりに思われそうだが、合繊素材も混ぜて機能性をアップした素材も多用されている。今は環境の変化により、合繊素材の機能性が大切な時代でもある(夏の暑さといったら)。モードでありつつ時代の需要にも応えてくれる側面が、「イレニサ」にはある。

実際に手に取って見たり着てみることで、いっそう個性が感じられるブランドだと言えよう。「イレニサ」はファッションの美を静かに主張する。

Official Website:irenisa.com
Instagram:@irenisa_official

スポンサーリンク