展示会レポート Youth of The Water 2025SS

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先シーズンの2024AWコレクションでデビューを飾った、上田 碧(ウエダ アオ)による「ユース オブ ザ ウォーター(Youth of The Water)」。先日、2025SSコレクションの展示会に伺ってきた。今回のテーマは“BREIDG AND TUNNEL”。直訳すると「橋とトンネル」だが、テーマについて上田に尋ねると背景を教えてくれた。最新コレクションは、上田が大学時代(パーソンズ美術大学)を過ごしたアメリカの記憶が反映されている。

“BREIDG AND TUNNEL”とは、ニューヨーク郊外に住み、橋とトンネルを使ってマンハッタンへ向かう人々を意味する。そこには新しいことに挑戦する人々という意味合いも含まれており、“BREIDG AND TUNNEL”はブランド設立から2シーズン目を迎えた上田の精神を表す言葉となり、その姿勢はアイテム数のボリュームアップや、オリジナル素材の増加といった、力強さを増したコレクションの構成にも表れていた。

また、今回のアイテムは上田がアメリカで過ごした大学時代の記憶が着想源となっている。当時の上田は、服装がカッコいいと思った人々をスナップしており、当時の人々が来ていた服が2025SSコレクションの源流となっている。

デビューコレクションでも実感した「ユース オブ ザ ウォーター」のワークウェア的泥臭さと実直さは最新コレクションでも健在だ。そして今回は、コレクション全体に優しさが増したように思う。

ヒッコリーストライプ、ステンカラーコート、ワークブルゾン、ジーンズと「ユース オブ ザ ウォーター」の服は、メンズウェアの古典的魅力が詰まっている。だが、その魅力は、昔の服を現代的にアップデートしたという手法とは違う魅力に感じられた。それはいったい何なのか。

過去の服を現代的にアップデートすることなく、現代に再現する。そんな個性を作り上げているのが「ユース オブ ザ ウォーター」ではないだろうか。

ファッションは常に新しさを求めるもの。過去の名作アイテムを着想源にしても、モダンなアイデアが注入されて生まれ変わる。しかし、最先端の新しさを求めないファッションにも魅力があるのではないか。現代の感性など必要ない。あの頃の服が今着たい。中にはリアルに体験していない時代の服だってあるだろう。それでも、あの頃の服を着たいと思う感情が芽生えてくる。「存在しない記憶」を甦らせるデザイン性が、「ユース オブ ザ ウォーター」にはある。

もちろん、「ユース オブ ザ ウォーター」はオリジナル素材やディテールの妙で、過去の名作アイテムにはない新しさが作られている。だが、その新しさはキレキレの新しさとは異なるタイプのもの。もっと穏やかで、もっと静かなものだ。

服を着ることは着る人の感性を表す。華やかなファッションは、自分という人間とはフィットしない。主張が抑制された服に、どうしようもなく惹かれる。そんな人間の心に響くのが、「ユース オブ ザ ウォーター」ではないだろうか。

ルックは上田の地元と彼の職場がある街で撮影された。実直なまでのリアリティは、ファンタジーを表現するファッションとは別の価値を示す。そしてシンプルな服だが、高級で上質感にあふれたシンプルウェアとも異なる個性を表す。「ユース オブ ザ ウォーター」の主張はミニマム。決して声高ではない。だからコレクションに優しさが増したに違いない。

ダイナミックなデザインだけが、挑戦的なファッションではない。上田と「ユース オブ ザ ウォーター」は穏やかに挑む。

Instagram:@youthofthewater

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