カルヴェンが披露したベーシックなアヴァンギャルドの可能性

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AFFECTUS No.545

アヴァンギャルドという言葉を聞くと、驚くべき形の服、斬新で特殊な加工を施した素材、困惑するほど大胆な色彩など、強烈なインパクトの服が思い浮かぶ。ファッションの歴史を振り返っても、アヴァンギャルドと称された服は当時の人々に驚きをもたらす服だったことがわかる。

ココ・シャネル(Coco Chanel)が提唱したパンツルックは、今見れば取り立てて珍しくないコンサバファッションに見えるが、現代と違って女性が働くことが当たり前ではなく、男性の服を女性が着ることが異端だった当時の価値観を思えば、シャネルのスタイルは十分にアヴァンギャルだったと言える。現代では普通に思える服が、過去の時点では奇異な服だった。そういうことが起こり得るのが、ファッションである。

このようにアヴァンギャルドの条件の一つに、その時代の価値観から見て際立った服の外観が挙げられる。ここで鍵になるのが「その時代の価値観」というものだ。これを前提に、ルイーズ・トロッター(Louise Trotter)率いる「カルヴェン(Carven)」の2024 Pre Fallコレクションを見てみよう。

真っ先に抱いた印象はベーシックなウィメンズウェア。杢グレーの生地で作ったトップスとセンタープリーツのパンツ、ブラウンの色味が上品な膝下丈スカート、ベージュのステンカラーコート、いずれも現代人のワードローブに欠かせないベーシックアイテムばかり。これらの服を見て、アヴァンギャルドだと思う人間はきっといないだろう。

しかし、すべてのルックを見終えて生まれたのは違和感だ。相容れない感情の源は、普通に見えたはずの服のフォルムにあった。その兆候はLook 2のダブルジャケットですでに表れていたのだが、すぐに気がつくことができなかった。肩幅が広く、袖丈も長いライトグレーのクラシックなジャケットは、スクウェアなフォルムを形作っている。

この時点で齟齬は何一つない。ダブルジャケットというのは、ウェストのシェイプを効かせた形も多いが、ボックスシルエットに作られることも多い。それゆえ、「カルヴェン」がコレクション冒頭で発表した古典的メンズウェアのボクシーな形に、違和感を感じることは難しかった。だが、以降、コレクションのルックを次々と見ていくと四角い形の残像を感じるアイテムが多く、このコレクションをベーシックと称していいのかと困惑する。

いや、ベーシックと言っていいのだろう。四角い形が多いと言っても、あからさまに長方形や正方形のコートやシャツが作られているわけではない。あくまで、幅広い身幅のストレートシルエットの服が多いというだけだ。しかし、だ。やはりコレクション全体を通してワイドなシルエットが頻繁に登場するため、上品な淑女スタイルの中で、四角いシルエットを取り入れた実験性が感じられてきてしまった。

もちろんトロッターが実験の意図を持って、今回のコレクションは製作していないかもしれない。単に、ボリュームのあるシルエットを今回の主役に据えようと思っただけの可能性はある。ただ、デザイナーの意図がどこにあるせよ、今回の「カルヴェン」にはアヴァンギャルドの定義を書き換える面白さが潜んでいるように思えた。

現代の価値観から見て普通だと思える服をベースに、異端な要素を持ち込んで製作する。そうして生まれた服には実験性が芽生える。インパクトのある外観を用いなくとも、アヴァンギャルドは表現できる。「ベーシックなアヴァンギャルド」と呼べるデザインの完成だ。

前衛的な形だけが、実験の舞台の主役ではない。簡素な形が、舞台の中央に躍り出ることもある。「カルヴェン」はファッションの新しい可能性を示唆する。

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