展示会レポート XS.S.M.L 2025SS

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特徴ある素材を作るためには何が必要か。原料から厳選し、織り方や編み方にこだわって素材を作るのも一つの方法だが、テクニックを用いて素材に表情を作り出すアプローチもある。「N.ハリウッド(N.Hoolywood)」でパタンナーとして10年の経験を積んだ渡辺光は、2025SSシーズンに自身のブランド「XS.S.M.L」をスタートする。ブランド名の読み方は「サイズ」。コンセプトに「Super Nomal – 普通を超える普通」を掲げ、渡辺は培ってきた経験と技術を武器にデビューコレクションを製作した。

広々としたコンクリート空間に並ぶ4本のラックが、ミニマルな空気を醸す。しかし、ラックにかけられたシャツやパンツは、ミニマルウェアでは見ることのできない豊かな表情を生地に浮かべていた。

アイテムの構成はシンプル。ボトムはミリタリーなエッセンスが香るパンツと涼しげなショーツ、オーソドックスなフォルムのシャツ、「リーバイス(Levi’s)」の3rdから着想を得たGジャン型のブルゾン、カジュアルウェアの王様Tシャツと、ベーシックアイテムが基盤となりコレクションは構成されている。

注目すべきは製品染めだ。ポリエステルもしくはナイロンの生地を、高温高圧で製品染めすることで、生地にシワ感がダイナミックに生じる。同じカーキであっても、ポリエステルとナイロンでは色味が異なり、色の差異がアイテムに個性を生む。

このシワ感を促進させる効果を発揮しているのが、縫い目のパッカリングである。パッカリングを強く出すことで、高温高圧の製品染めによって生まれる生地の表情がいっそう豊かになるという仕組みだ。

このように「XS.S.M.L」のデビューコレクションは素材に大きな特徴があるが、技術を駆使して生み出したものである。しかも、素材を上品に美しく見せるのではなく、退廃的な素材の表情に仕上げた。

私が試着したアイテムで、最も惹かれたのはこのフードブルゾンだった。

ブルゾンを着て鏡の前に立ち、すぐに実感したのが形の綺麗さだった。シワでわかりづらいかもしれないが、端正なフォルムに目を奪われる。そして次に思ったのは、渡辺のフォルム作りのセンスでコートを作ったら、どんなデザインが完成するのだろうかということだった。今回コートの発表はなかったが、次シーズン以降、コートはぜひとも見てみたいアイテムだ。

「XS.S.M.L」はユニセックスで展開されているため、女性も着用することができる。一見するとハードな服で男性が着ると渋みが増すのだが、女性が着用すると想像以上にフェミニンな雰囲気になり、興味深かった。

ラックに掛けられた服を見れば、「XS.S.M.L」のデビューコレクションは、大胆さや鮮やかさを主張する服ではないことがお分かりいただけるだろう。

しかし、世の中には、煌びやかなファッションとは異なるファッションに惹かれる人たちもいる。シンプルな服が好きと言っても、誰もが高級感にあふれたクワイエット・ラグジュアリーが好きなわけではない。そう言った人々の声に応えてくれるブランドが「XS.S.M.L」だと言える。

派手さとは遠く距離を置いたスタイルが、現代のトレンドへのアンチテーゼとなる。服作りのプロフェッショナルによる実直な服作りが、今始まる。

Instagram:@xs.s.m.l_official

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