展示会レポート Paratrait 2025SS

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展示会取材を取材するたびに、不思議だと思うことがある。展示会場に入るなり、まだ服を手に取って詳しく見たわけではないのに、ラックに掛かった服からクオリティの高さが迫ってくることがあるのだ。そして、そう感じたコレクションは実際にアイテムを見てみると、予感が正しかったことを証明する。「パラトレイト(Paratrait)」はまさにそんなブランドの一つだった。

2023年、「パラトレイト」はスタートする。デザイナーの坂井 俊太は文化服装学院卒業後、イスティチュート・マランゴーニ(Istituto Marangoni)のロンドン校で修士課程を修了し、「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」を経て、クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)時代の「バーバリー」でウィメンズウェアのデザイナーとして5年の経験を積む。

ロンドンでの日々を終えると、日本に帰国。その後はデザイン会社を設立し、国内外のブランドにデザインを提供すると同時に、「ダイワ(Daiwa)」のデザイナーも務めている。坂井がデザイナーとして歩んだ道のりを知ると、非常に興味深い。イギリスが誇るエレガンスを体験し、日本ではフィッシングブランドとして世界を代表する企業のデザイナーも経験。いったいどんな服を作るのだろうかと、想像力が刺激される。

初めて展示会を訪れた先シーズンの2024AWコレクションは、デニムウェアのインパクトが大きかった。明るい色に染めた経糸を使用したインディゴを、ブリーチして経糸の色を浮かび上がらせる。そうすることで、デニム生地の表面に虹のような色彩を生み出したジーンズは、今までに見たことのない服だった。コレクションはテックウェアの技術によって作るトラッドウェアという、新たなコンテクストを切り拓く。

2回目の展示会訪問となる2025SSコレクションは、素材のテクニックが冴え渡ると同時にさらに品格が増していた。最新コレクションは、坂井がスリランカに赴いた体験が着想源となっている。インド洋に浮かぶ国で坂井が見たものの一つが、建築家ジェフリー・バワ(Geoffrey Bawa)が手がけたホテルだった。

バワは「トロピカル建築の天才」と言われ、彼の設計したホテルは雄大な自然の中から突如現れた古代遺跡を彷彿させ、ホテルの佇まいには芸術作品に通じる美しさと迫力がある。自然と人工が一体化した建築と同様に、2025SSシーズンの「パラトレイト」にはテックウェアとヴィンテージウェアが一体化した個性が築き上げられていた。

まず最初に拝見したアイテムがクルーネックのTシャツ。一見すると服に穴が空いているように見えるが、コットンと釣り糸に使う素材を使用した生地の、コットン部分だけが溶けてメッシュ状の生地が模様として浮かび上がったもの。白い箇所は薄く透けるが、肌を完全に見せるほどの薄さではない。また、ダメージによって穴が空いているように見えるシャツはジャガードによって製作されたもので、穴に思えた箇所はTシャツと同じくメッシュ状になっており、肌が完全に見える薄さではないため、安心してデイリーに着ることができる。

「パラトレイト」は大胆なデザインを行う一方で、実際に街中で着るためのリアリティを確保してくれる。

オーソドックスなタック入りのチノパンも、「パラトレイト」のフィルターを通せばテックな香りが漂う。フロントファスナーと脇ポケットの仕様が、スタンダードなチノパンからアレンジされて新鮮な表情を作り、素材も触ってみると想像以上に柔らかく優しく、チノパンの常識を変える。素材の感触が夏にふさわしいものになり、暑い日々に穿くチノパンとして快適性がアップしていた。

前回の展示会で拝見したレインボーなデニムも健在だった。上記の写真では少々わかりづらいのだが、色落ち部分が虹色に表現され、非常に個性的なジーンズに仕上がっている。1枚目はウィメンズサイズとなり、2枚目の画像はメンズサイズとなる。虹の色味はぜひとも店頭で実際に見てもらいたい。

最も惹かれたトップスがこちらのクルーネックタイプ。素材は薄く柔らかく優しいが、このアイテムの生地も大胆に肌が透けて見えるほどの薄さではない。最初は楊柳にも見えて土着的な服の匂いが強く、自然の美しさよりも自然の荒々しさが具現化されたかのようだった。黒も良かったが、一番惹かれたのはグリーン。鮮やかさが眩しい半袖トップスは、この一枚があれば夏のファッションは事足りると思えるほどの存在感。

ただし、2025SSコレクションの私的ベストアイテムは色気にあふれたトップスではなく、フード付きのロングコート。「実際に着てみると、ハンガーに掛かっている時よりも魅力的」と思える服に出会えることは幸せだが、オリーブカラーのロングコートがまさにそれだった。

ロングコートについては「AFFECTUS」のInstagramアカウントで語っているため、ここでは詳しく話すことを控えたいと思う。

前回の2024AWコレクションを拝見した時、「パラトレイト」はダークトーンのストリートウェアという印象を持ったのだが、最新2025SSコレクションは白を基調にした服が優しげで、ナイロンを混ぜたストライプのシャツ生地が爽やかで、植物モチーフの柄も登場して前回にイメージされたダークトーンが早くも覆る。

「パラトレイト」の服は素材とディテールに様々なアイデアとテクニックが使われているのだが、完成した服を見ると重層的な背景は感じさせず、軽やかでシンプルに仕上がっているため、「日常的に着たい」と着用意欲を刺激するパワーがあった。

前回の2024AWコレクションで抱いたイメージをさらに更新して、新しい魅力を作り上げた坂井の手腕は今後の進化に期待を抱かせる。本格的なデビューから間もないため、「パラトレイト」をご存知の方はまだ少ないのかもしれないが、ぜひとも1度見てもらいたいブランドの一つだ。

Official Website:paratrait.com

Instagram:@paratrait

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