ロルフ エクロスは思い出を服に表現する

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AFFECTUS No.549

デザイン大国としても知られるフィンランドは、期待のファッションブランドを輩出している。2025SSシーズンのコペンハーゲン・ファッションウィークが開幕した8月5日、ランウェイショーで最新コレクションを発表した「ロルフ エクロス(Rolf Ekroth)」は、フィンランドを代表する新しい才能だ。

ブランドにはデザイナーの人生が滲み出す。2022年6月22日公開「変態性に惹きつけられるロルフ・エクロス」で述べたとおり、自分の名前をブランド名にしたデザイナー、ロルフ・エクロスはプロのポーカープレイヤーとして働くなど稀有なキャリアの持ち主。彼の歩みを知ると、人生では自分の興味に純粋であることの大切さを知る。「ロルフ エクロス」のデザインには好奇心という言葉がふさわしい。

2025SSコレクションのタイトルとなった「ラヴァタンシット(Lavatanssit)」という言葉は、オープンテラスのあるダンスホールでペアになって踊りを楽しむ、フィンランド独自のダンス文化を意味する。耳慣れない響きの言葉の意味を知り、人々が笑顔で気持ちよく踊る風景が浮かび上がってきた。

色と柄、シルエットのバランスが楽しげな2025SSコレクションは、服たちが愉快に踊る。スタイルの基本はストリートウェア。そこにアウトドア、トラッドも混じり合う。ファーストルックから連続して、全身花柄プリントのロングワンピースが3ルック登場する。そのように書くとフェミニンな印象を持たれるかもしれないが、Look1とLook2はアウトドア的様相のベストを上半身に合わせ、可愛さから一歩も二歩も距離を置く。

Look3のプリントワンピースは、ノースリーブのフィット&フレアシルエットでこれぞフェミニンといった佇まい。だが、足元は黄色いショートソックスと、昔のサッカーシューズを思わせる黒いスニーカーを履き、とてもスポーティ。そして、この黄色いフラワープリントワンピースを着ているのは男性モデルで、可憐さよりも逞しが際立つ。

「ロルフ エクロス」の色使いは優しい。柔らかいトーンのブラウン系・グリーン系が数多く使われ、ピンク系やイエロー系のカラーも挟み込まれ、コレクションを刺々しいものにはしない。ディテールも遊びに満ちており、絵本を見ているかのようだ。真っ白なTシャツ&ワイドシルエットのジーンズに、ライトブルーのキャップを被った究極のカジュアルスタイルは、青いデニム生地の上に大量の小さな黄色い花のモチーフが取り付けられ、作業着という歴史を持つアイテムをファンタジーなボトムに変貌させた。

しかし、柔らかなコレクションは徐々に雰囲気を変えていく。ショーの後半になると色使いもグレー・迷彩・カーキが現れ、深く濃い色のテキスタイルも使用されている。前半はTシャツやフーディ、ジーンズなどのカジュアルが目立っていたが、後半ではテーラードジャケットやダブルブレステッドのロングコートなど、クラシックアイテムが主役。ただし、着こなしに関しては終始ストリートウェア的で自由だ。

フードを被るモデルは童話「赤ずきん」の女の子を呼び起こし、肩にかけたスカーフもキッズウェア的。だが、男性モデルがフーディの上から着ているのは、深みのあるカーキが渋いダブルブレステッドのロングコート。スタイルのイメージが子供から大人へシフトチェンジしたかと思えば、コートの裾はグレー地のストライプ生地に切り替えられ、脚は白地に赤い薔薇が映えるソックスを穿き、足元にはこれまたスポーツの競技スパイクを連想させる、薄汚れた黒いスニーカーをスタイリング。子供の服とも大人の服とも、そして男性の服とも女性の服とも、幾つものイメージが泳ぎ、ファッションの境界が溶けていく。

2025SSコレクションの初見は幻想的だけどデイリーに着られる服に思えるのだが、ルックを見続けて気がつくのは甘さがないこと。どちらかと言えば、ファッションの辛さが強く現れている。このように「ロルフ エクロス」のスタイルは、あらゆるファッションがあちらこちらに散らばっている。そう、それはままさに自分の好奇心に純粋で、さまざまな経験を重ねてきたエクロスの人生そのもの。

ここ数シーズン、展示会取材をしていて驚くのは若い才能の活躍。20代前半と非常に若いアーティストやフォトグラファーがブランドと協働することが多く、しかも若いクリエーターは独学で実力を磨いてきたケースが多い。WordPressを用いたウェブサイト制作では、「Elementor(エレメンター)」といった複雑な作業を必要とせず、優れたデザインを可能にするプラグインが登場し、複雑なコーディングを必要しないノーコードのサイト制作が普及し始めている。

テクノロジーが進化する今は、技術を学べる場が教育環境やプロの現場だけとは限らなくなってきた。以前なら、プロとアマチュアをわける境界は技術だった。しかし、技術だけで優位性を保てる時代ではなくりつつある。技術習得のハードルが下がってきた現代に必要なのは、創造的な発想だ。

ファッションの常識に捉われず、ファッションの自由を表現する「ロルフ エクロス」には、現代に必要な独創性が備わっている。人生の思い出を服に乗せ、フィンランドの才能は時代の最先端を歩く。

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