アンダーカバーがミニマリズムの可能性を切り拓く

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AFFECTUS No.550

装飾性を排除したミニマリズムについて、時々こんな想像をする。アヴァンギャルドなデザイナーがミニマルな服をデザインしたら、どんな服が誕生するのかと。たとえば「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」の川久保怜が、色展開を白・黒・グレー・ベージュのみに限定し、ジャカードであれプリントであれ柄はいっさい使用せず無地の生地のみを用いて、シンプル&クリーンなシルエットの服を製作したら、どんなコレクションが完成するのだろう。

きっと、ミニマルなコートやパンツを作ろうと思っても、服のどこかに異端な要素が覗くのではないか。DNAに刻まれた前衛精神は抑えようとしても抑えられない。掌からこぼれ落ちるように、ミニマルウェアの上で奇想なアイデアが展開されていく。

ミニマリズムとは、ミニマルな感性を持つデザイナーだけが作るものではないはず。アヴァンギャルドな感性の持ち主が、ミニマルな服を作ることがあっても不思議ではない。そんな想像を刺激されるコレクションが発表された。それが、高橋盾が発表した「アンダーカバー(Undercover)」2025Resortメンズコレクションである。改めて思う。日本が誇るアヴァンギャルドファッションの担い手は、やはり底知れない才能の持ち主だ。

全ルックを見てまず印象的だったのは、抑制された色使い。グレー、ブラック、ホワイトという無彩色がコレクションの要で、それらの色がグラデーションに展開される。たとえばグレーなら、チャコールグレーとライトグレーが使われ、その他にも青味を帯びたグレーといった具合に灰色はバリエーションを披露する。ブラックも墨色と呼べる漆黒よりも薄味の黒が使われ、グリーンがかかった黒(グリーンがかったグレーにも見える)も登場して、淡いニュアンスの色使いが表現されていた。

アイテムの中心はカジュアル。Tシャツやハーフパンツ、オープンカラーシャツ、ワークブルゾン、カーゴパンツは軽装なスタイルの主役で、いずれのアイテムもルーズシルエットに仕上がり、その外観はまさにストリートウェア。しかし、コレクションを通して見ると、むしろクラシックな印象が強くなるから不思議だった。それはなぜなのかと考えてみると、要因はボトムにあった。

キーボトムは、全24ルックのうち使用されていたのは4ルックだけと数が少ない、センタープレスの入ったパンツだ。シルエットはテーパード、パンツ丈は足首ほどで裾を弛ませない端正な長さ。素材もクラシカルな生地が使われているために、トラウザーズと呼ぶ方がしっくりくる。ドロップショルダーの黒い開襟シャツとシックなグレーのセンタープレスパンツを組み合わせたスタイルは、クラシックストリートと呼ぶにふさわしい。

スタイリングに使用された回数が少なくとも、2025Resortメンズコレクションのアイコンスタイルを作り出していたために、センタープレスパンツは実際の登場回数以上に大きなインパクトを生んでいた。また、パンツの色使いがブラックとグレーのダークカラーが中心だったことも見逃せない。ルーズシルエットのハーフパンツとカーゴパンツは、暗いトーンの色によってモデルたちに渋さと落ち着きをもたらす。

メンズファッションは、パンツがスタイルの要だと断言してもいい。パンツの印象がメンズファッションのスタイルを形作るのだ。

しかし、ここで伝えなければならない。さきほど、今回の「アンダーカバー」をミニマリズムと称したが、このコレクションは真のミニマリズムとは異なる。それを物語るのがグラフィックの多さ。シャツやコート、Tシャツやハーフパンツには写真のように切り取られたグラフィックがいくつもパッチワークされている。このようなグラフィカルなデザインは、ミニマリズムでお目にかかることはない。

しかし、ドロップショルダーのシャツに貼り付けられたグラフィックこそが、私の見たかった「掌からこぼれ落ちたもの」だった。アヴァンギャルドなデザイナーがデザインするミニマリズムを見たかったのは、「ミニマリズムの女王」と呼ばれたジル・サンダー(Jil Sander)と同じ服が見たかったからではない。

ファッション史に登場してきた従来のミニマリズムとは違うミニマリズム。シンプル&クリーンな服の進化を見たい。それが、アヴァンギャルドの精神を持つデザイナーたちにミニマルな服を切望した最大の理由である。

「アンダーカバー」2025Resortメンズコレクションは、高橋盾のダークロマンティックが抑制されて表現されたミニマルな趣さえあるストリートウェア。この軽やかなバランスが現代ファッションの概念を更新する。ミニマリズムの新しい可能性を切り拓くのは、アヴァンギャルドかもしれない。

〈了〉

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