展示会レポート Open Sesame Club 2025SS

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「今年の夏は暑い」と毎年言っている気がするが、それでもはやはり今年の夏は暑い。7月から最高気温が30℃後半になることが多く、展示会取材で駅から会場まで歩くだけで疲弊することもしばしば。暑さは体力と精神を磨耗させるのだと実感する。

これだけ気温と湿度が高いと、服の素材にも機能性が欲しくなってくる。天然素材100%の機能だけではしのぐことのできない気候になってきた。合繊素材との混合で、天然素材の特徴を備えつつ、天然素材よりも速乾性や接触冷感など機能性がさらに向上していたら、夏の日々はもっと快適になる。でも、快適な服だけではファッションは満足できない。一目で魅了されるデザイン性も絶対に必要だ。

2022SSシーズンにスタートしたウィメンズブランド「オープンセサミクラブ(Opne Sesame Club)」は、キッチュなかわいさに素材の機能性を合わせ持ち、現代の暮らしを華やかにかつ心地よく過ごすことを可能にする。展示会を初めて訪れたのは、2023AWコレクションの時だった。初見から特徴あるニットの造形に惹き寄せられた。

こう表現するのは適切ではないかもしれないが、編み地が突起しているニットウェアの表面を見ていたら「イソギンチャク」という言葉が浮かんできた。独特な形状の触手を持つ無脊椎動物の姿が浮かんできたのだ。多くの人々が美しさを感じないであろうものに、美しさを見出すオリジナリティの高い審美眼を感じ、「オープンセサミクラブ」への興味が増していく。

そんな個性的な外観のニットに不思議とかわいさを感じたのは、明るい色使いだったり、短いレングスのカーディガンやスレンダーなロングスカートという、服そのもののかわいさが要因だった。未知の美意識とファッションの魅力を結びつけるブランドに大きな可能性を感じた。

そして、久しぶりに訪れた展示会でも「オープンセサミクラブ」のオリジナリティは健在だった。ニットだけでなくジーンズも発表し、コレクションの構成がパワーアップ。ブランドの力は確実に強化されていた。

独特な形状のニットがフェミニンに映る「durianシリーズ」のニットは、特異な外観とは裏腹に編み地は薄手かつ軽やかで、肌触りも柔らかい。リボン使いも可憐で、フェミニンな魅力を捉えていた。

ノースリーブトップスはリサイクルナイロン70%、ポリエステル30%を使用し、環境に配慮した素材使い。細番手の糸を使用した編み地は優しく心地よい。カーディガンもリサイクルナイロン55%、ポリエステル45%を使用しており、こちらもサスティナブルかつ素材もノースリーブトップスと同様の心地よさ。

鮮やかなブルーがフレッシュなトップスとスカートも、リンクス編みで縦と横の両方に収縮が出る組織を完成させ、編み地の表面を個性的に見せる。裾部分で編み地を変えてフレアの形状を添えて、独特の造形と可憐な造形を一体化するセンスを発揮。

素材の透け感が魅力のスカートはしっかりと裏地を取り付けられている。しかも、裏地は取り外しが可能なため、裏地ありでスカート単体としても着ていいし、裏地を取り外してパンツとのレイヤードも楽しめる仕組み。

ハーフスリーブトップスもリンクス編みによる収縮性で、スモッキングを彷彿させる表情を実現。着丈の短さと、幅広なネックラインがフェミニンだ。

グランジなニットアイテムも登場。これはコットン100%の素材に透明感のある糸をプレーティング(ニットの編立て方法の1つで、2本の編糸を同時に表裏に編分ける編み方)した素材(アイテムの素材混率はコットン85%、ポリエステル15%)に、コットン部分のみにレーザー加工を施してダメージ風に焼き溶かしている。 加えて、科学薬品などを使用しない環境に対して負荷が少ない素材のボールで洗いをかけ、ビンテージ風に仕上げていた。

グランジファッションの王道とも言えるデザインだが、アイテムはコンサバライクなニットカーディガンやトップスで、既存のファッションにギャップを作り出す。

2025SSコレクションで最も色彩豊かだったアイテムは、こちらの「flower block」シリーズ。デザイナーが花のモチーフを集めたファイルのサムネイル画像から着想し、プリント柄を製作。撮影した写真をスマートフォンで確認するように、プリント柄はブロック状に画像が連続しているのがお分かりいただけると思う。色鮮やかな編み地は、ネップの大きなスラブを使用しているためタオル地のようで非常に心地よい。

そして今回発表されたジーンズが、「オープセサミクラブ」のスタイルにバリエーションを広げる。

ピンクとグレーの2色展開によるブリーチジーンズは、ホワイトデニムを一旦染めてからブリーチを施す。そのため、淡いニュアンスの色表現を実現することができた。ディテールもリベットなどのジーンズの歴史ある要素は継承しつつ、革パッチは外して軽やかさを演出している。

「オープンセサミクラブ」は素材作りにこだわり、オリジナリティの高い編み地を完成させている。一方で、特徴ある編み地を、可憐な色使いとシルエットによるコンサバティブなアイテムと一体化させ、キッチュなかわいさを作り出していた。加えて今回は、ブリーチジーンズとスプレージーンズも発表してスタイルの幅を広げ、ルックもクールな質感に仕上げている。

ジェンダーレスファッションが、今のファッション界ではスタンダードになった。一方で、ここ数シーズンはウィメンズウェアらしさ、メンズウェアらしさという伝統の価値観に回帰するコレクションもファッション界では増えてきた。エレガンスに境界はないし、性別で分けられるものではない。一方で女性ならではの魅力、男性ならではの魅力があるのも事実。どちらかを否定することなく、どちらも楽しめばファッションはさらに楽しくなる。

「オープンセサミクラブ」は女性ファッション伝統のかわいさを編み立てる。だけど、ちょっと斜めに外れた視点から、「これもかわいいよ」と優しく教えて導く。テクニカルな素材からわかるように、モードな姿勢を持つブランドだが、洗えることができてアイロン入らずのニットウェアを製作し、日々の着やすさと暮らしやすさを大切にした服作りも行う。日常と非日常の狭間を、「オープンセサミクラブ」はその糸で繋いでいく。

Official Website:open-sesame-club.com
Instagram:@open_sesame_club

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