苦境が伝えられる現在のバーバリーについて

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AFFECTUS No.559

今年は、「バーバリー(Burberry)」の業績不振というニュースが様々なメディアで取り挙げられている。今年5月には、通期の営業利益が前年比36%減の4億1800万ポンド(約860億円)になったことが発表された(『フォーブス(Forbes)』「英バーバリーが人員削減を計画 売上低迷とブランドの魅力回復に苦心」より)。7月15日、CEOであるジョナサン・エイクロイド(Jonathan Akeroyd)の退任が明らかになり、後任には「マイケル コース(Michael Kors)」前CEOジョシュア・シュルマン(Joshua Schulman)が就任した。減収減益になり、英国が誇る伝統はビジネスが苦境に陥っている。

リカルド・ティッシィの後を受け継ぎ、2022年10月にチーフ・クリエイティブ・オフィサーにダニエル・リー(Daniel Lee)が就任したが、クリエイティブが新体制になっても「バーバリー」の状況は芳しくない。この要因はどこにあるのだろうか。ビジネス的観点から述べることは、それを専門とするメディアと人々に任せ、ここではデザイン的観点から考えていきたい。

リー体制が始まった2023AWシーズンから先日発表された最新2025SSシーズンまで、全4コレクションを改めて見てみると、一つの疑問が浮かび上がってきた。

「顧客が好むスタイルからズレているのではないか?」

リーによる「バーバリー」のデビューコレクションとなった2023AWコレクションは、今改めて見ると想像以上にストリート感の強いものだった。バーバリーチェックの柄向きを斜めに変え、格子柄のサイズも拡大したトラディショナルなチェック柄は大胆さを増す。メンズラインはルーズシルエットのアイテムに、新型のチェック生地が使用されているため、いっそうストリート感が強くなる。一方、ウィメンズラインはスタイルそのものはコンサバティブ。だが、ダイナミックにアレンジされたチェック柄を使ったコンサバルックは、やはりストリート感が濃い。

スタイルの基本は英国クラシックにあるのだが、オーバーサイズシルエット、グラフィカルなトップス、拡大された千鳥格子を思わす柄など、このコレクションは立体的にも平面的にも装飾性が強い。そこにストリートな着こなしがセットになることで、渋く上品なクラシックなファッションとは別のムードを醸す。デビューコレクションは非常にグラフィカルだった。

しかし、2シーズン目の2024SSコレクションから徐々にグラフィック量は減り、ストリート感も薄まっていく。代わりに英国クラシック濃度が上がっていった。最新2025SSコレクションでは、「バーバリー」伝統のチェック生地の使用回数も少なかった。

これは推測になるが、現代のトレンドであるクワイエット・ラグジュアリーが影響しているのではないだろうか。ハイブランドの顧客層では、最高峰の素材をシンプル&ベーシックに作ったクワイエット・ラグジュアリーが好まれている。「グッチ(Gucci)」はクリエイティブ・ディレクターを装飾性の強いデザインが特徴だったアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)から、クリーンなデザインを得意とするサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)に交代した。

「グッチ」のディレクター人事について『フォーブス』では、ミケーレのデコラティブなコレクションが市場とマッチしなくなり、加えて同ブランドの重要な市場である中国市場の富裕層がクワイエット・ラグジュアリーを好んでいるために、ミケーレから交代したという記事を掲載している。その分析は非常に興味深い内容だった(『フォーブス』「中国で苦戦する『グッチ』、落ち込みが他社より激しい理由」より)。

徐々にデザインの転換を図っているリーによる「バーバリー」だが、まだストリート感のあるルックが散見される。しかし、トップスとパンツを黒一色にまとめ、首元にスカーフを巻いたメンズルック、薄く柔らかい布地を用いたロング丈のプリーツスカートを穿くウィメンズルックは、優雅でお淑やか。確実に変化は始まっている。1856年創業の歴史を持つ英国ブランドが、どのように現在の苦境を打破していくのか目が離せない。

〈了〉

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