渡辺淳弥と川久保玲

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AFFECTUS No.563

9月28日、「ジュンヤ ワタナベ(Junya Watanabe)」が2025SSコレクションを発表した。パリで発表された最新ルックは、渡辺淳弥の造形センスが発揮され、反射材やシルバーシートなどの工業素材がインダスリアル&ダイナミックなドレスに変貌した。台形に似た形を模したドレスは一見すると非日常的な形の服なのだが、1987年に創業した京都のバイク用品メーカー「デグナー(Degner)」のロゴが取り付けられているため、突如リアリティが襲ってくる。

本コレクションはおよそファッションとは呼べない抽象的な造形が次々と登場する。しかし、見覚えのある工業素材を用いているためにどこか現実感も漂う。SF映画に登場しそうな近未来ドレスをはじめとして、現代の日常性を失っているドレスが数多く登場するが、現代のリサイクル素材を使った半分リアルなドレスが空想世界へ運ばれそうな意識を現実に押し留める。

私は今回のコレクションを見て、なぜ自分が「ジュンヤ ワタナベ」を好きなのか改めて理解した。現存する服の断片を残しながら、大胆奇想なフォルムを生み出す手法に惹かれてしまうのだ。渡辺淳弥はスポーツやトラッド、ファッション普遍の服たちの記憶を引き継ぎながら、現在のファッションには見られない未来のフォルムを作り出す天才である。2025SSコレクションは機能性が重視されるアイテムの断片(工業素材)が、現存する服の断片を引き継ぐ役割を果たし、複雑なパターンワークによって近未来ドレスを作り出していた。

「ジュンヤ ワタナベ」がリアリティを残存させて彫刻的なフォルムを作り出すなら、川久保玲の「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」は現実から完璧に切り離して、アヴァンギャルド純度2000%の彫刻フォルムを作り出す。

「コム デ ギャルソン」2025SSコレクションは見る者の言葉を失わせる。ショックが理由なのではなく、どう形容していいのか適切な言葉を見つけることができない戸惑いが理由だ。着用する人間の存在感を希薄にするほど巨大なフォルムは、「ジュンヤ ワタナベ」とはまったく異なるベクトルのデザイン。2025SSコレクションはインパクト大のホワイトルックを発表し、蝋燭なのか、生クリームなのか、はたまた白いメリーゴーランドなのか、想像が加速していく。服というイメージを彼方に追いやる布のオブジェは、見る者の頭の中からリアリティを消し去るのだった。

ショーに登場したのは白い素材だけではない。メッシュ生地で包んだ羽毛布団のように膨らんだ素材、紫の塗料を吹き付けた外壁を思わす硬質な素材、黒地に赤いタンポポ(だろうか?)や青地に赤とピンクの花が表面を埋め尽くす素材、中国やインドの美術をイメージさせる柄と、ジャンルも何もかもがバラバラの素材がコレクションに使われていた。しかも、服のフォルムもテント型、巨大な筒、蛇と雲がうねって絡みつくようなスカート、袖が何本も取り付けられたドレスといった具合に、日常生活ではまず着る機会がないであろう異形な形が作られていた。

近年、布のオブジェ化が進行していた「コム デ ギャルソン」だが、今シーズンのコレクションはここ数シーズンの中でも常軌を逸する造形だ。何やら不穏な空気さえ感じてくるほどのコレクションだった。世界によくないことを起こることを予見しているのだろうか。神からのお告げと思わざるを得ない、特殊で特別なフォルムに神秘性が宿る。

一目で惹きつける造形を作り出す「ジュンヤ ワタナベ」と「コム デ ギャルソン」だが、製作アプローチは完全に異なる。服の断片をモチーフにして異形のフォルムを生む渡辺淳弥と、服という概念を超えた場所で異形のフォルムを作る川久保玲。世界中を見渡しても異質なデザイナー二人が同じ会社にいる。それは奇跡といっていい出来事だ。

「ジュンヤ ワタナベ」と「コム デ ギャルソン」、あなたはどちらの服が好みだろうか。この問いを最後に、今回は終わりとしたい。

〈了〉

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