ロマンティックに進化したロクのクールスタイル

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AFFECTUS No.566

ファッションブランドには常に新しさが求められる。一度人気になったスタイルでも、それが数シーズン、数年と変化もなく続けばファンから飽きられてしまう。得意のスタイルに新しい何かが入ることでコレクションは進化し、ファンも喜ぶ。そんなことを改めて思ったのは「ロク(Rokh)」の2025SSコレクションを見たからだった。

デザイナーのロク・ファン(Rok Hwang)はデビュー以来、一貫してクールなスタイルを発表してきた。直線的なカッティングで、クラシックウェアの構造を書き換えるデザインはシャープでモダンだ。パリで発表されるコレクションにも関わらず、ニューヨークモードの切れ味を見た感覚に陥る。同文脈のデザインに「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」と「ピーター ドゥ(Peter Do)」が挙げられるが、「プロエンザ スクーラー」よりも女性像のイメージは若く、「ピーター ドゥ」よりもマニッシュ成分が抑えめでドレッシーな成分が強いという違いがある。

「ロク」のコレクションは、決してファッションの歴史を変革させるタイプのデザインではない。だが、魅せるファッションを作るセンスが抜群だ。今この時代に、「着たい」「欲しい」と思わせる引力を作り出すコレクションはいつのシーズンを見ても痺れる。1年前の2024SSコレクションではメンズラインも発表し、ウィメンズラインと同様のシャープなカッティングを駆使すると同時に、ウィメンズラインよりも若い人間像を披露した。本格的デビューとなったメンズラインは、クールなモードウェアを若い男の子たちが自由に着こなすカッコよさがある。

ブランドの特徴を維持して新しさを加えていく「ロク」の創作姿勢は、9月に発表された2025SSコレクションでも確認できる。最新コレクションで見られた新しさはバレエコアだった。

2023年後半から世界中に人気スタイルとして広まったバレエコアは、バレリーナの衣装から着想を得たスタイルとして知られている。チュールやチュチュなどの透け感ある素材、フリルやフレアを取り入れた甘いシルエット、レッグウォーマー、サテン、リボンが多用されたロマンティックなファッションが新たなるガーリースタイルとして人気を獲得した。

色は黒を主役に、テーラードジャケットやトレンチコートを基盤にしたスタイルに変わりはない。いつも通りクールなカッティングが冴え渡り、モデルたちの佇まいをモードに魅せるお馴染みのデザインに、今回はコルセットライクなトップス、ギャザーをふんだんに寄せたブラトップス、薄手の素材をドッキングさせたフレアシルエットのジャケット、アームウォーマーやレッグウォーマー、ミニ丈のティアードスカートといったアイテムを発表した。

「ロク」はバレアコアを直接的に表現したわけではない。バレアコアの要素を抽出して、シャープ&クールなスタイルに甘さを溶け込ませた。完成したニュースタイルは女性モデルだけでなく男性モデルも着用し、メンズラインの更新をも図っていた。

ヴォーグ・ランウェイ(Vogue Runway)によると、ファンは今回のコレクションのインスピレーション源はアトリエのテーブルで行った作業だったと述べており、バレエコアへの言及は一言もない。だからこそ、訊ねてみたくなる。

「今回のコレクションはバレエコアに通じるロマンティックな印象で、このデザインは今までのあなたのコレクションとは異なる新しさを感じました。このように柔らかく甘いファッションを作ろうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?」と。

ファンの創作意図はバレエコアとは違うのだろう。しかし、「ロク」のコレクションから学べるのはトレンドを捉えて、ブランドの特徴を融合させる手法の重要さだ。ブランドに新しさを作ろうとする時、トレンドは大きな武器になる。トレンドにはその時代の人々が「着たい」と実感させる魅力が潜んでいる。そのパワーを無視することはない。デザイナーの創造性によってトレンドは新しい姿となり、ブランドを愛するファンを魅了するだろう。

〈了〉

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