AFFECTUS No.567
市場的にストリートウェアのブームが過ぎ去った。だが、私個人はストリートウェアへの関心がさらに強まっている。理由は自分が見たいと切に願っているデザインのストリートウェアになかなか出会えないからだ。現在、モードシーンで目にするストリートウェアはグラフィックや刺繍など装飾性の強いデザインが多い。だが、見たいのはミニマルなストリートウェアだった。装飾性は抑制され、カッティングでデザイン性を押し出し、クールでシャープなストリートウェア。それこそが見たい。
そんなブランドが皆無というわけではない。韓国の「ポスト アーカイブ ファクション(Post Archive Faction)」は、曲線あるいは直線の切り替えを多用し、服の構造線をクリエイティブに表現してクールな佇まいに仕上げ、サイバーなストリートウェアというジャンルを開拓した。Instagramのブランドアカウントでフィード投稿やストーリーズを見ることは、私にとって密かな楽しみになっている。
前々回公開のNo.565「ニコロ・パスカレッティによる矛盾の乗り越え方」でも触れた「ジョアンナ パーヴ(Johanna Parv)」は、痺れるカッコよさのストリートウェアだ。厳密に言えば「ジョアンナ パーヴ」はデザイナーのパーヴが愛するサイクリングライフから発想して製作されているため、ストリートウェアにカテゴライズするのは間違っているだろう。しかし、黒を主体にした鋭いシルエットのコレクションはモードなストリートウェアと呼ぶにふさわしい。
そして、もう一つ私の心を打つブランドがある。それが今回のテーマとなったブランドであり、取り上げるのはこれで3回目となる「エリオット エミル(Heliot Emil)」だ。前回の2024AWシーズンに引き続き、コペンハーゲンブランドは最新2025SSシーズンでもキレにキレていた。
「ジョアンナ パーヴ」と同様に「エリオット エミル」もブランドカラーは黒だ。2025SSコレクションはショーの中盤で白を主体にしたルックも登場するが、全ルックの約2/3はダークカラーが占めていた。もう一つ「エリオット エミル」を特徴づける要素があり、それはカッティングである。
コレクションを見るたびに思うのだが、「エリオット エミル」のジャケットやコートは一度解体されたパーツを再度作り直したテクニカルな印象を覚える。服が体を覆うアクセサリーにも、異なるアイテムの異なるパーツがドッキングしたアイテムにも見えてしまう。実際のアイテムはそこまで複雑なパターンで作られてはいないのだが、ファスナー使いや斜めの切り替え、アシンメトリーなフォルムが錯覚を起こす。
2025SSコレクションは文字通り春夏シーズンの商品だが、「エリオット エミル」はダウンジャケットを発表している。筋肉が隆起した身体にも見える着丈短めの黒いダウンジャケットは、ハイテクウェアと呼ぶにふさわましい佇まい。マッスルシルエットのサマーダウンが示す通り、「エリオット エミル」の服には近未来の最新技術で人間の身体を拡張したイメージが湧き上がってくる。現代の服なのだが、現代の服ではない、どこか別の時代の都市で必要とされる服。そんな物語を連想させるパワーが宿っているのだ。
刺繍やグラフィックの使用を控えた服は、北欧デザイン伝統のクリーンさに通じるが、黒をメインカラーにしてシャープなカットで見せるデザインは北欧デザインの文脈を枝分かれさせた個性が備わっている。ただ、文脈的新しさは「エリオット エミル」に関しては後から気づく魅力だと言っていい。シャープなカッティングを駆使したスポーティなモノトーンウェアは、常にカッコいい。ビジュアルこそ、このブランド最大の魅力。カッコよさは正義。これこそファッションの原点だ。
〈了〉