ホダコヴァが「LVMHプライズ」2024グランプリを獲得

スポンサーリンク

AFFECTUS No.569

9月13日、2024年度の「LVMHプライズ」グランプリが発表された。受賞したのはスウェーデンを拠点に置く「ホダコヴァ(Hodakova)」。デザイナーのエレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)は賞金40万ユーロ(約6,600万円)とLVMHのエキスパートから1年間のメンターシップが授与された。発表から1ヶ月以上経ってしまったが、本日は2021年に設立された新進の北欧ブランドについて取り上げたいと思う。

「ホダコヴァ」をテーマにするのは今回が初めてではない。2021年11月7日公開No.286「20世紀のアントワープの影が匂うホダコヴァ」で一度取り上げていた。3年前、私はこの新鋭ブランドについてアントワープ王立芸術アカデミーの影を感じると述べた。ただし、現代のアカデミーのことではなく1980年代から2000年に及ぶアントワープデザイナーたちのことを指している。3年前の「ホダコヴァ」は荒々しさと繊細さが同居し、暗さが美しいという価値観を時代に焼き付けた20世紀のアンワープ派デザイナーたちの服と重なっていたのだ。

では、現在の「ホダコヴァ」はどうなっているのだろう。今年9月24日にパリで発表された2025SSコレクションを見ることで確認していきたい。

結論から言うとダークなアントワープ色はやや薄れ、トラッドスタイルと実験的造形がミックスしたコレクションに変化していた。厳密に言えば、変貌したと言うほど大胆な変化ではないが、アーガイルセーターや膝丈のプリーツスカート、白いシャツとVネックニットなどのトラッドファッションがルックに組み込まれ、前衛的ダークロマンスは少々弱まっている。

だが、3年前にも披露していた実験性が完全に失われたわけではない。特にマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)に通じる、モチーフを連続して実験性を出すデザインは健在だった。短冊状にカットしたレザーを交互に編み込んだスカート、白いレザーベルトを何本も繋げて作ったミニドレス、ロングブーツを解体して再構築したベアトップドレスには、古いストッキングでドレスを作るなど、古い衣服を解体して再生させるマルジェラの創造性に共通するものがある。

とりわけ目を引いたのは、正方形の板を用いたドレスだった。風景が描かれたキャンバスの両端を持ち上げていくと、絵画部分がドレスとして立ち上がっていき、四角いキャンバスはドレスの裾に変身した。そんなイメージが湧き起こる不思議なデザインだ。このルックはマルジェラよりも、フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)が2000AWコレクションで発表した、家具が衣服になるデザインを思い出した。

チャラヤンのショーについて少し話したい。モデルが丸いテーブルの中央を掴むと、円形状に中央部分が外れて小さな穴ができる。テーブルの中央にできた穴にモデルは入り込み、立ったまま穴の縁を両手で掴んで持ち上げると、テーブルは地層のように断層的な形をしたスカートに変貌した。実際にショー映像を観てもらいたいので、YouTubeで公開されているコレクション映像を紹介したい。

Chalayan Auntumn/Winter 2000 After Words

「ホダコヴァ」の絵画ドレスは、チャラヤンの家具ガーメントをもう少しウェアラブルにしたと言えよう。現代モードの歴史を見るような文脈的デザインは、見る者にモードの原点を呼び起こす。

ラーソンのデザインする服は、「着やすい」「かわいい」といったファッションとは一線を画す。リアルな服はあるのだが、フォルムとディテールを非日常のファッションに仕立てた服も混ざり込んでいる。改めて2025SSコレクションを見てみると、コンサバな女性像も感じてきた。このテイストは3年前の「ホダコヴァ」には感じられなかったものだ。コンサバスタイルを好む女性の中にも、実験的モードウェアが着たい人がいるかもしれない。そんな女性たちのために作られた服とも言える。複雑なコンサバウェアを着たい人に、おすすめしたいブランドだ。

「ホダコヴァ」がLVMHプライズのグランプリを受賞したニュースは、スカンジナビアファッションの勢いを示す。現代ファッションをリードしていく才能が今後も現れるのか、引き続きコペンハーゲン ファッションウィークに注目していきたい。

〈了〉

スポンサーリンク