AFFECTUS No.571
プラダグループが2024年1月から9月までに及ぶ9ヶ月間の業績を発表した。「ビジネス オブ ファッション(The Business of Fashion)」によると、プラダグループ全体の売上高は前年同期比18%増となり、この好調な業績の大きな要因となったのは「ミュウミュウ(Miu Miu)」の驚異的成長にあるとのこと。「ミュウミュウ」は、第3四半期(2024年7月から9月)の売上高が前年同期比105%と2倍以上に増加していた。
現在、ラグジュアリーブランドには向かい風が吹いている。2024年9月25日公開 No.559「苦境が伝えられる現在のバーバリーについて」でも、ロンドンが誇る老舗ブランドの減収減益をお伝えしたが、第3四半期におけるLVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループの売上高は5%減、「グッチ(Gucci)」のオーナーであるケリングは15%減となっている。特に「グッチ」は、売上高が16億ユーロ(約2650億円)で26%減となり、減少幅が大きい。
前クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)体制は2021年から成長の鈍化が始まり、2023年1月に新クリエイティブ・ディレクターとしてサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)が発表された。ミケーレの退任理由は、マキシマリズムと称される装飾性高いミケーレのデザインが、上質なシンプルさが特徴のクワイエット・ラグジュアリーが人気の市場と齟齬を起こし、売上低下を招いたことが要因と推測されている。以下、今回はこの推測を前提にして話を進めたいと思う。
実際、デ・サルノが手がける「グッチ」はミケーレとは対極のミニマルでクリーンな服を発表している。しかし、デ・サルノ体制のデビューは2024SSシーズンからになるが、1シーズンを経た現時点では「グッチ」の業績に好転が見られない。
仮に、先述したミケーレの退任理由が本当だとした際、その判断は合理的に思える。市場のトレンドがシンプルでリュクスな服が人気となっているから、装飾性の高いデザイナーからミニマルなデザイナーにディレクターを交代する。判断に矛盾は見られない。もちろん、デ・サルノが就任してからまだ1シーズンのため、これから「グッチ」の業績が回復する可能性は大いにある。
一方、「ミュウミュウ」はなぜ好調なのだろう。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)が送り出すコレクションは、市場で人気とされるシンプルかつ上質な服とは正反対のデザインだ。ファッションの歴史上も最も短いスカート丈と称したいマイクロミニスカート、下着を大胆に晒してしまうスタイリングは破天荒な魅力に満ちて、「ミュウミュウ」はウィメンズウェアを若々しくエネルギッシュなものにした。自由奔放なコレクションは世界中の女性たちの心を捉え、ブランドの売上を年々成長させている。
「ミュウミュウ」のスタイルは上質で綺麗な服とは反するもの。「グッチ」とは真逆の選択で、トレンドにカウンターを仕掛けるものだ。しかし、ミウッチャとヴォルコヴァは時代の新しいスタイルを切り拓く。ここがファッションの面白いところだと言えよう。合理的に思える判断が結果を生まないことがあり、非合理に思える判断が結果を生むことがある。
「ミュウミュウ」が好調な要因は、ブランドがターゲットとする女性たちが「本当に欲しい服」を作ったことにあるのではないか。デザイナーが自身の世界観を打ち出して、世界観の個性で消費者を惹きつける手法が多いモードファッションでも、顧客視点のアプローチは重要だ。世の中にはクワイエット・ラグジュアリーを望まない女性たちがいた。そんな女性たちが「ミュウミュウ」を好きなファンであり、ミウッチャとヴォルコヴァはコンサバファッションの文脈上で表現した前衛的ガーリースタイルで女性たちの心を掴む。
「グッチ」が市場の変化を捉えて顧客視点でディレクターを交代したにもかかわらず、3シーズンほど継続しても売上が回復しないなら、「グッチ」の顧客が望むファッションはシンプルでリュクスな服ではないのかもしれない。マキシマリズムでもミニリマリズムでもないファッション。それは、いったいどんな服なのだろう。デ・サルノの「グッチ」、そしてコレクションに変化が現れ始めたダニエル・リー(Daniel Lee)の「バーバリー」も、今後の業績がどうなっていくのか注目していきたい。
〈了〉