AFFECTUS No.571
コペンハーゲンを代表するブランド「ガニー(Ganni)」がついにパリデビューを飾った。2025SSシーズン、クリーン&ナチュラルという北欧デザインの枠を破壊した「ガニー」は、パリで初めてのランウェイショーを開催する。ショー冒頭はオフホワイト・ベージュ・ブラウンという基本色のルックが登場し、アイテムもテーラードジャケット・トレンチコート・テーラードコートというベーシックが軸。しかし、コペンハーゲンの異端がシンプルなスタイルを発表するわけがない。
ファーストルックはジャケットの下にオーガンジー素材のブラウスを着用し、首元にはブラウスと同素材のコンパクトなフリルスカーフを巻き、シックなジャケットスタイルを甘い方向に崩す。セカンドルックのトレンチコートルックも首元にフリルスカーフを巻いて、コートの袖口からはオーガンジー素材のカフスが覗く。そして、サードルックはさらに異端性を増していく。蛍光イエローを彷彿させる素材のニットとフリルスカーフ、ブラウンのパンツの上からは白い薄手素材のスカートらしきアイテムを重ね着し、ブラウンのテーラードコートの渋さと相反する繊細な表情をボトムに見せるのだった。
このままベーシック路線を異端に崩すルックが続くのかと思いきや、今度は一転してスポーツルックの登場だ。思い出させるのはウィンタースポーツを代表するアイスホッケーのユニフォーム。背番号13と「GANNI」のロゴが、選手の名前のようにプリントされている。だが、通常のユニフォームが発表されたわけではない。まるで何着ものユニフォームを解体して再構築したドレスのように、スポーティなロングドレスは左右非対称の構造とシルエットを堂々と作り出す。ユニフォームから発想されたアイテムはその後も幾度か登場し、コレクションに軽快なストリート感を加えるのだった。
ガニーはファッションのベーシックをとことん崩す。テーラードジャケットのウェストから上をカットしたアイテムを、パンツの上からミニスカート的にレイヤード。ブルー・イエローといった明るい色は使われているが、ビビッドと言うほど鮮やかではない。むしろ怪しいムードといった方が近いだろう。素材も色もアイテムも様々な要素がミックスし、シルエットもドレッシーかと思えばクラシックであったり、それらが一体のルックの中で完結する。
なんともカオスなファッションだ。しかし、モデルたちの装いを見るとカオスというよりも、ダークなフェミニンといった印象だ。「ガニー」のデザインは、ギャザー・薄手素材・肌を見せる・フレアシルエットなど、一つのルックの中にウィメンズウェアを代表する要素を取り入れていることが多い。たとえば、チャコールグレーの生地で仕立てた、ダブルブレステッドのテーラードコートを着ても、首元と袖口にライトブルーの薄手生地のスカーフとカフスを合わせて、モデルの佇まいをマスキュリンへ完全に振り切ることはしない。
一見、混沌としたミックススタイルだとしても、フェミニンなイメージを持つディテールや素材、色などを少数でも混ぜることで、コレクションに可愛さを一貫させている。これは非常に興味深いテクニックだ。無秩序に組み合わせても、一つのテイストを必ず混ぜる。その手法をルック全体で統一させれば、コレクションに安定をもたらす。これまで数多くのファッションデザインを観察してきたが、このような手法は初めて見たかもしれない。
以前にも「ガニー」をテーマに書いたが(2022年9月4日公開 No.361「デンマークで異色の存在感を示すガニー」)、その時には気づくことのできなかったデザイン手法だ。様々なファッションをミックスしてもスタイルを綺麗に整えるのではなく、野生味を加えて仕上げるのもガニーの特徴である。
「ガニー」はパリ伝統のエレガンスに対して、新たなエレガンスを切り拓く。ファッションの歴史を物語る街パリで、コペンハーゲンの実力派がどのようなコレクションを発表していくのか、今後も目が離せない。
〈了〉