本日は「チカ キサダ(Chika Kisada)」2025SSコレクションの展示会レポートをお届けしたい。取材したのは9月12日だったので、記事の制作・公開まで2ヶ月を要してしまった。本来なら取材後すぐにアップするつもりだったのだが、体調を崩したり、仕事のスケジュールが急に詰まったりで、この時期になってしまったことをお詫びしたい。
表参道駅からほど近い展示会場を訪れと、出迎えてくれたのはドラマティックな赤いドレスだった。
鮮烈な赤が眩しく、チュールが花のように大きく広がるシルエットが抜群の存在感を発揮し、会場内でも一際目立つアイテムだ。会場の入り口付近にはドレス以外にも、バレエダンサーだったデザイナー幾左田千佳の背景が表現されたビスチュエが並んでいた。
手前に見える赤いビスチェエに使われた素材は、どこか着物の生地を思わせてオリエンタルな香りが漂う。迫力のあるエレガンスに目が奪われたが、会場のラックに掛けられた服を見ていくと、むしろ魅力に感じられてきたのはテーラードジャケットやデニムウェアといった日常性の高いアイテム群だった。
真っ赤なアウターはワイドなシルエットで、スポーツ要素が強く非常にボリューミー。だが、「チカ キサダ」の特徴であるカッティングが、ベーシックなアウターとは一味違うフォルムを作り出す。袖の肘付近にダーツが作られ、ささやかな膨らみを作り、袖幅は幅広いが肘から下はスリムな幅に転換している。ベーシックなストライプシャツは袖にチュールがパフスリーブのようにドッキングし、ベーシックの概念から大きく外れる。
「チカ キサダ」は1着の服の中にコントラストをつけることで、デイリーなアイテムにドラマティックな世界を生み出す。服の中に起承転結の物語が潜んでいるかのようだ。一方で、外観的にインパクトのあるフォルムがあるかと思えば、シンプルな形の服も発表されている。テーラードジャケットが代表アイテムになるだろう。
チョークストライプ生地を使ったマスキュリンなジャケットは、先ほどのアウターやシャツに比べて非常にシンプルで、しかもスリムなフォルムだ。ただし、パターンを見るとメンズジャケットとは異なる構造であることがわかる。前身頃のアームホールからポケットの玉縁に向かって、一本の切り替え線(大きく長いダーツとも言えるが)が入っているが、メンズジャケットではここまで中心寄りかつカーブが大きくない。この切り替え線でより立体的に表現が可能になり、脇線にも切り替え線が入っているために、ウェストのシェイプをより強く出せる構造になっている。
シンプルな形を作っても、女性特有のボディラインを際立たせるパターンによって、マスキュリンなジャケットにフェミニンを挟み込む。やはりジャケットにおいても1着の中にコントラストを作り、ドラマティックなムードを演出している。
一番印象に残ったアイテムは、ショーでも登場したデニムジャケットだった。ここでも特徴的なカッティングが冴え渡っている。
一見すると古着のような素材感のデニムジャケット。まず目を惹くのは胸の切り裂かれた穴だろう。白い糸がほつれ、胸元を露わにするようで露わにはしない。よく見ると、白いステッチがブラトップのような形で描かれ、女性の造形美を立体だけでなく平面でも表現している。
そして一番の特徴は袖のパターンだ。前向きに傾きの強い袖は肘にダーツを作り、膨らみを生む。平坦なはずの服に歪な立体感を生み出す。しかし、それは大胆ではなくささやかにひっそりと。また、このダーツは袖のカーブを強める効果も併せ持っている。
「チカ キサダ」はパターンだけでなく、アイテムや素材でもコントラストを作り、ブランドに多面的な表情を作り出す。以下のアイテムは、これまで紹介したテーラードジャケットやデニムウェアとはまったく異なるものだ。しかし、「チカ キサダ」ならではの華やかなエレガンスがしっかりと表現され、コレクションに統一感を生む。
繊細で華やかなテクニックとダイナミックなフォルムデザインが同居し、日常をドラマティックに演出するウィメンズウェア。それが、初めて訪れた展示会で「チカ キサダ」に感じた魅力だった。ジェンダーレスの概念が浸透して長い月日が経つが、ここにきて女性ならではのエレガンスを表現するブランドが新鮮に感じられてきた。それはメンズブランドにも言えることで、メンズ独自の重厚さや渋さが表現されると今は新鮮に感じる。
今、ファッションの潮流が変わりつつある。「チカ キサダ」は新しい波を生もうとしているブランドの一つだろう。
Official Website:Chika Kisada
Instagram:@chikakisada