「バレエのエレガンス、パンクの生命力」
「チカ キサダ(Chika Kisada)」の掲げるブランドコンセプトは単純明快、シンプルかつ短い言葉で瞬時にブランドのスタイルを浮かび上がらせるイメージ力がある。この一文にはブランドの魅力が定義づけされるパワーがあり、広告コピーで言うところのタグラインと呼べる効果を発揮している。
デザイナーの幾左田千佳は、自らバレエダンサーとして舞台で活動したのちに自身のブランドを設立した。2025SSコレクションは華やかで儚げ、力強くも艶やか。発表されたルックは優雅でありながら、アスリートとしての魅力を迫ってくるバレエダンサーに感じられた。レースをふんだんに用いた素材構成は、ウィメンズウェアならではの美を際立たせ、コルセットのパターン構造によるトップスはウェストのシェイプを効かせたフォルムが、女性固有のボディラインを強調し、ファッション伝統のエレガンスを浮き彫りにした。
しかし、「チカ キサダ」は決してコスチューム的な服を発表しているわけではない。日常で着られるファッションに夢を持ち込むブランドだと言えよう。グレー地のチョークストライプを使用したテーラードジャケットは、袖をバッサリとカットした、ややフレンチスレーブ型のカッティングと身頃を斜めに走る切り替えがシャープ。一方でラペルのVゾーンはコンパクトで胸元をコンサバ調に引き立てる。メンズウェア伝統の素材とアイテムを、メンズウェアではまず見られない形とパターンに仕上げたデザインはまさにパンクだ。
日常の服をドラマティックに書き換える手法は、デニムアイテムにも発揮された。定番のデニムジャケットは挑戦的パターンで生まれ変わり、モードな一着へ。一目で意識が向くのはバスト付近で切り裂かれた穴。バストラインよりも下、脇線寄りに、一直線で裂かれた穴は何かが見えるようで見えずミステリアス。
注目したいのは袖のパターンだ。身頃のヨーク切り替え線が袖から袖口まで一続きに続き、正面から見ると袖の切り替え線から直角で外袖側に複数本のダーツが確認できた。ダーツは袖をささやかにランダムに膨らませ、綺麗にきっちり作るはずの服に不規則なリズムと躍動感を生む。ジーンズは色褪せたデニム生地とワイドシルエットが野生味にあふれ、ハイウェストのウェストをきっちり上まで留めることなく、だらしなく折り返す。
ショーの最後の登場した真紅のドレスが物語るように、「チカ キサダ」は確かにドラマティックかつエレガントだ。しかし、既存のルールに反するパンクマインドがあることを、ストリート感さえ迫るデニムウェアが証明している。2025SSコレクションは、ブランドコンセプトを見事に具体化させたコレクションである。
Official Website:Chika Kisada
Instagram:@chikakisada