AFFECTUS No.577
近年、アジアのブランドを見ていると、デザイナーのカルチャーが色濃く投影されたコレクションにファッションの熱が高まっていく。渋谷パルコで、11月15日から25日まで韓国ブランド「ポスト アーカイブ ファクション(Post Archive Faction)」のポップアップが開催されていた。ブラックやグレーなど無彩色をメインに、アシンメトリーなカッティングを駆使したスポーティなウェアは、「サイバーなストリートウェア」と呼びたくなる魅力にあふれている。「ポスト アーカイブ ファクション」のように、近年はアジアのブランドが世界的に注目され、中でも韓国ブランドたちはその筆頭だろう。
同じくアジアで以前から私が強い興味を抱いているブランドと言えば、ここでも何度か述べてきた台湾の「ネームセイク(Namesake)」だ。リチャード(Richard)、マイケル(Michael)、スティーブ(Steve)のシェイ(Hsieh)兄弟が手がけるストリートウェアは、彼らが敬愛するバスケットボールを軸にテクニカルな構造で展開する。シグネチャーのデザインに、クラシック色が強まったコレクションが、今年1月に発表された2024AWコレクション。次々に登場するルックを見た時、これは「ネームセイク」のベストコレクションではないかと思えるほどだった。
前述したように、「ネームセイク」はバスケカルチャーが基盤にあり、2024AWコレクションにも反映されているが、今コレクションではサッカーが大きなモチーフになっていた。サッカーシャツが、グレーのワークジャケットやルーズなボトムと合わせて登場。これは稀代のフットボールプレーヤー、イングランドのデイヴィッド・ベッカム(David Beckham)からの着想だった。ブランドのIntagaramにも、モデルがサッカーのトレーニングキットを纏い、ピッチに立ってゴールネットを掴むビジュアルが投稿されていた。台湾ブランドはスポーツを敬愛し、自分たちのルックに惜しげもなく取り入れる。
グレー地のステンカラーのロングコートは、お世辞にもお洒落とは言えない色味とシルエット。野暮ったさが際立つアウターは父親のコートを着ているかのようだが、逆にストリートなコレクションの中で絶妙なアクセントになってクラシック色の強化という、いい意味での副作用を生み出す。テーラードジャケットも発表されるが、上衿のないデザインで、肩先がドロップするワイドなシルエットに対して着丈がやや短いというアンバランスが目を惹きつけるのだった。
今年6月に発表された2025SSコレクションは、クリーンな印象が強くなった。「ネームセイク」に限ったことではないが、現在のファッションではクリーンが一つの潮流になっており、今コレクションで「ネームセイク」は特徴であるルーズなストリートシルエットは変えず、カラー展開にオフホワイトを多用し、デニムは淡く色褪せ、チェックやストライプ生地もライトなトーンの色で展開することで時代の変化を表現した。
2025SSコレクションでも得意のカッティングは冴え渡る。服のシルエット自体は特別インパクトがあるわけではないが、通常のパンツではありえない箇所に斜め、もしくは直線で切り替えが入ったり、ポケットが作られるなどして、服の構造でデザインの濃さを発揮するのが、このブランドの特徴だ。そのままであれば重々しくなるデザインを、2025SSコレクションではクリーンな空気を纏わせることで、時代に合うと同時に春夏らしい軽快なスタイルを完成させた。
今、日本語で読める「ネームセイク」の濃厚なデザイナーインタビューは存在しない。それが非常に残念だ(私の知る限りでは)。冒頭の「ポスト アーカイブ ファクション」もそうだが、アジアのストリート派にはデザイナーたちのカルチャーが色濃く感じられる濃厚さがある。デザインは全く異なるのだが、2000年代前後に世界中から注目を浴びたアントワープのようだ。20年以上の歳月が経ち、スタイルも全く違うにもかかわらず、コレクションを見た際の感覚は当時の体験と重なる。「ネームセイク」が私の過去の記憶と感情を呼び起こす。やはり、この台湾ブランドには痺れてしまう。この感覚、決して激辛のカレーを食べたせいではないだろう。
〈了〉