AFFECTUS No.578
11月15日から25日まで渋谷パルコで開催されていた「ポスト アーカイブ ファクション(Post Archive Faction)」(以下、PAF)のポップアップストアを、最終日に訪れてきた。ブランドの象徴であるショート丈のダウンジャケットが壁一面に並び、グレーやブラックなど冷たいトーンの色と有機的なカッティングのウェアは、まさに未来のストリートウェア。縫製を確認すると、想像以上に丁寧かつ綺麗な仕上がりで、服としてのクオリティも高水準に保たれている。生産はどこで行っているのだろうかと知りたくなり、一本のパンツのタグを確認するとベトナムだった。いい工場と取引しているのだなと実感する服の質である。
パターンワークの面白さがPAFの真骨頂だ。曲線の切り替えを多用することで、服に生物を彷彿させる躍動感を生み出す。しかし、無彩色のカラーがクールな印象を植え付けて機械的でもある。テクノロジーが現代よりもさらに発達した世界のワークウェアというイメージも生まれてきた。テーラードジャケットに、マチありのポケットを大量に取り付けたアイテムがあったのだが、ファスナーを開けてポケットの袋布を全て外に出した様子は、ジャケットに大量の花々が咲いたようだった。だが、開花した花びらは人工的にも見える。
サイバーなブランドは2018年に韓国・ソウルで設立された。クリエイティブ・ディレクターを務めるのはドンジュン・リム(Dongjoon Lim)。リムはファッションの専門教育を受けておらず、ソウルで工業デザインを2年ほど学び、中退する。PAF設立のきっかけとなったのは、デザイン会社でインターンとして働いていた時だった。ウェブサイトのデザインをする傍ら、自分でブランドを作るアイディアを思い浮かべる。PAF設立時に明確なブランドコンセプトがあったわけでもなく、デザイナーという仕事やブランド運営のノウハウについて知らなかったため、PAF設立当初は非常に苦労するのだが、万全な準備が整わずにブランドをスタートさせたのは、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の「完璧主義を追求しない」という言葉に影響を受けたからだった。PAFのコレクションは、通常のシーズン表記ではなく「2.0」といったように数字を用いて表現しており、これもアブローの方法を参考にしている(現在は、2024AWシーズンを意味する「7.0」まで発売)。
ブランド名には“faction(派閥)”という政治用語が入っている。リムの父親は、韓国で軍事政権に反対する運動家だった。1980年代の韓国で、リムの父親は警察や軍隊に抗議活動をしていたため、そのような背景からリムは父親からの影響が大きく、ブランド名に“factoin”を取り入れる要因となった。
コレクションは、“LEFT”、“CENTER”、“RIGHT”という3つのラインから構成されているのだが、これらも政治用語の「左派」「中道」「右派」が着想源となっている。“LEFT”はデザイン性が強いラインであり、“RIGHT”はシンプルなデザインが特徴。そして、“CENTER”は“LEFT”と“RIGHT”の中間に仕上げられたデザインである。PAFの3つのラインは、左派は革新派、右派は保守派、中道は革新や保守のどちらにも偏らない姿勢という、政治用語の意味に基づいたデザイン展開が行われている。
このようにPAFはリムの背景が大きな柱となっているが、コレクションはむしろメッセージ性を排除した無色のデザインと言えるだろう。特徴的なカッティングとワークウェアテイストのデザインが、服そのものに意識を向けさせる。ソウルにはPAFのショップがあり、内装はこれまた冷たいトーンを押し出した非常にクールな空間。工業デザイン的なムードは、訪れたくなる魅力があふれている。
PAFのInstgramは、現在フォロワー数が38万人を超えている。最近のフィード投稿で目を引いたのが、“Our Uniform”と題されたキャンペーンだ。これは、韓国の学生たちが制服やダウンジャケットを着ていたという共通の記憶がテーマになった。何十人という若者たちがPAFのダウンジャケットを制服のように着用し、学校のグラウンド、屋上、教室で佇む写真は繊細で儚げ。PAFは新世代のためのユニフォーム。そんなカルチャー感が迫るキャンペーンだと言えよう。
PAFに限らず、現在の韓国ブランドはブランドの見せ方が洗練されている。服を作り、その服をどう見せたら最も魅力的に映るのかを検討し、ビジュアルやキャンペーンを仕掛けていく。そうしてブランドの価値が高まるサイクルを実現する。
現代のファッションデザイナーは服作りのこだわりと共に、ブランドの見せ方にもアイディアを求められる時代になった今、PAFは韓国が生んだモダンブランドだと言えよう。2021年に「LVMHプライズ」のファイナリストに選出され、現代のランニングシーンを牽引するスイスのスポーツブランド「オン(On)」とのコラボレーションを発表したPAFは、これからどんな成長を見せるのだろうか。今後もこのストリートブランドの動向を追っていきたい。
〈了〉
参考資料
POST ARCHIVE FACTION (PAF) Podcast w/ Creative Director Dongjoon Lim
HYPEBEAST “Meet POST ARCHIVE FACTION: A Brand Based on Evolution and Belief”
GRAILED “Post Archive Faction: A Conversation with Dongjoon Lim”