ジョウンドはモントリオールから発信し、世界を振り向かせ続ける

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AFFECTUS No.579

「ニューバランス(New Balance)」、「アディダス オリジナルス(Adidas Originals)」、「リーボック(Reebok)」、「アーペーセー(A.P.C.)」、「リーバイス(Levi’s)」、「ティンバーランド(Timberland )」、「アシックス(Asics)」、「デサント オルテライン(Descente Allterrain)」……。これは一つのブランドが、今年2024年の1年間でコラボレーションを行ったブランドである。まさに驚異的な人気だといえよう。ジャスティン・サンダース(Justin Saunders)率いるカナダ・モントリオールを拠点にする「ジョウンド(JJJJound)」は、世界中からコラボレーションを望む声が舞い込む。

サンダースはInstagramが登場する3年前の2006年、自分のブログJJJJound.comを開設した。“JJJJound”とは“found”の“f”を、サンダースのファーストネームの“j”から取ったものだ。“j”が4つ並んでいるのは「なんとなく」が理由とのこと。キャプションやタイトルが一切ない、ネットで「発見」した写真をアップするだけのブログはミニマルなテイストが人気を集め、彼は『T:The New York Times Style Magazine』で記事を書くようになり、注目されるようになっていった。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)とも交流し、イェ(Ye)のクリエイティブ・エージェンシー「ドンダ(Donda)」でアートディレクターとしても活躍する。

モントリオールに設立したデザインスタジオはコンサルティングが主な業務だったが、2018年からオリジナルプロダクトの発表を始める。これは「ジョウンド」が、デザインスタジオからブランドになった瞬間とも言えよう。サンダースが発表するアイテムは、いずれもシンプルでクリーン。ノームコア時代を思い起こさせるシンプルさだ。発表する服も、ファッション史に残る名作をアップデートしたものばかり。カレッジウェアとも言えるシャツのボタンダウンシャツ、1990年代のスポーツウェアに影響を受けた裏毛フーディ、ステンカラーの渋さがたまらなく、派手さが皆無で英国におけるレインコートの代名詞となるマックジャケット、「ジョウンド」の服は新しい物を作り出そうとする意思よりも、受け継がれてきた物の良さを「ジョウンド」=サンダースが理想とするバランスに作り変えることを重視しているかのようだ。

サンダースのフィルターを通るとベーシックは上品さを纏う。シンプルなTシャツ一着とっても、彼の美意識が徹底されている。フォルム的には特筆目を引く要素のない真っ白な半袖トップスは、やや幅の広いネックが几帳面さを訴える。後ろ襟ぐりの裏側は、しっかりとタコバインダーで縫い代を覆い隠し、清潔感さえ漂う。個人的にTシャツ後ろ襟ぐり裏側の処理は、タコバインダーを用いている方が好きだ。理想は襟ぐりから肩線を通って、アームホールまでタコバインダー処理をしていると嬉しい。

袖口と裾に注目すると、「ジョウンド」のTシャツはシングルステッチで処理されている。手持ちのTシャツの裾を見てみると、恐らくほとんどが2本針によるダブルステッチではないだろうか。ダブルステッチは強いて言えばカジュアルな印象が強いが(Tシャツなのだからカジュアルで当たり前だが)、シングルステッチのTシャツを見ているとシャツのようにドレッシーな感覚を覚える。「ジョウンド」はカジュアルウェアの王様と呼べるアイテムに、少しでも上品な空気を纏わせようとするのだ。

フランスのワークジャケットが由来のチョアジャケットを基盤にした、French Chore Jacketは色鮮やかなブルーに染まったリネンが眩しい。シルエットはコンパクトで、着丈もチョアジャケットの中ではやや短い。むしろジャケットというよりもシャツに近いアイテムだ。「ジョウンド」は服を少しでもソフトなイメージに着地させようとする。オンラインストアではモデルが着用した姿ではなく、白い背景に平置きの服がずらりと並ぶ。クリックするとアイテムを着たモデルを確認できるが、極力人間の介在を省こうとする姿勢は、プロダクトへの意識を向けさせる効果を発揮している。

これだけ世界中から注目されても、サンダースはファッションの中心地であるヨーロッパに移ることはせず、モントリオールを拠点に活動し、10代から過ごす街でトラックスーツを作る道を選んでいる。究極的に研ぎ澄ました美意識を発信し、その美意識を徹底的に染み込ませた服を作ることができたなら、向こうから世界がやってくる。「ジョウンド」は文字通り発見された。

〈了〉

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