ハイプビーストがアパレルラインをローンチ -メディアの収益モデル-

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AFFECTUS No.583

2024年11月27日、ケヴィン・マ(Kevin Ma)が設立した香港を拠点にするメディア「ハイプビースト(Hypebeast)」が、同メディアの名を冠したアパレルラインをローンチした。ストリートウェアのエッセンスを加えた定番アイテムを軸にするコレクションは、ガーメントダイで仕上げたフーディジップアップ、Tシャツ、スウェットパンツ、キャップなど、商品ラインナップはまさにストリートウェアそのもの。価格帯は65ドル(約9,850円)から160ドル(約24,240円)と比較的手頃なプライスに収まっている。

現在、ハイプビーストのInstagramアカウント(@hypebeast)はフォロワー数が1,071万人と、メディアの中でもトップクラスのフォロワー数を誇っている。もちろん、フォロワーの全てが顧客になるわけではないが、オンラインショップ「HBX」を運営するハイプビーストが売上高をアップさせるビジネスとして、オリジナルのアパレルラインをローンチしたことは自然な流れだろう。

かつてファッションメディアといえば雑誌が圧倒的存在感を放ち、紙面に掲載される広告がビジネスモデルの柱だった。しかし、インターネットの登場によりメディアの状況が一変したことは、多くの方たちがご存知だろう。ファッション誌の休刊は相次ぎ、継続されたファッション誌も毎月から隔月へと出版間隔が変更になるなど、ファッションメディアの雑誌は縮小していき、ウェブメディアを立ち上げる形態が主流となっていった。

ウェブメディアの多くは無料で見たり、読むことができる。ではウェブメディアがどのように売上を上げているのか。今回は私が個人的に注目しているファッション業界のビジネスモデル7例を取り上げながら、ファッション業界以外のメディアについても触れながら話したいと思う。

1. 純広告
ウェブが主流になっても、メディアにとって広告枠を販売する純広告は依然として重要な収益源だ。

電通による調査レポート「2023年 日本の広告費」では、日本の2023年総広告費は過去最高の7兆3,167億円(前年比103.0%)、インターネット広告費は3兆3,330億円(前年比107.8%)と過去最高を記録し、インターネット広告は広告市場全体の成長を後押ししている。一方、マスコミ四媒体広告費(新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディア)は2兆3,161億円(96.6%)となり、年々落ちている。

ただし、雑誌広告費は1,163億円(前年比102.0%)と伸びている。同レポートによると、紙の出版物推定販売金額は雑誌が前年比92.1%と落ちているのだが、電子出版市場は前年比106.7%と伸びており、雑誌広告費の成長を支えた。

ファッション界で電子媒体を出版している代表的メディアといえば「WWDJAPAN」だ。広告の掲載料がいくらになるか、興味を持たれる方もきっといるだろう。広告メニューと金額を公開しているメディアは比較的多く、WWDJAPANもその一つだである。詳細を知りたい方は以下のリンクを見てもらいたい。毎週出版するWeeklyとウェブサイトに掲載する、広告メニューと金額の詳細が公開されている。

MEDIA KIT 「WWDJAPAN」媒体資料

またファッションメディアではないが、テクノロジーの進化に注目したカルチャーメディア「WIRED(ワイアード)」も広告媒体資料を公開しており、様々なデータも掲載している。

『WIRED』日本版広告媒体資料 JULY – コンデナスト・ジャパン

2. タイアップ記事
ウェブメディアを訪れると「PR」と表記された記事を見かけることがあると思う。これは広告費を出す企業の商品やサービスを宣伝するために、メディアが記事を制作する広告になる。通常の記事と同じような構成のため、読み物として読まれやすいと言うメリットがある一方で、「PR」という表記を目にすると読むことを避ける読者が多いことはデメリットになる。タイアップ記事はメディアの編集力が活かせる広告であり、制作面でのメリットもある。

3. サブスクリプション
無料で見たり、読んだりすることができるウェブメディアは多いが、近年はコンテンツを有料で提供するメディアも増えている。毎月、利用料金を払うことで閲覧できるサブスクリプション型である。WWDJAPANは以前はウェブサイトに掲載されている記事のほとんどが無料で読めたが、現在はサブスクリプションに移行し、多くの記事はサービスに加入することで読むことができる。WWDJAPANと同様に、ファッション界の業界新聞「繊研新聞」も以前はウェブサイトの記事が無料で読めたが、現在はサブスクリプションに加入することで記事が読める仕様に変更した。海外ファッションメディアでいえば、イギリスの「ビジネス オブ ファッション(The Business of Fashion)」が代表例だ。

このモデルは、ニュース媒体としての性質が強く、編集者や記者が多数抱えている企業でないとなかなか難しい。毎月金額を払うのに、コンテンツの更新頻度が少なければ読者は不満を抱き、解約に至ってしまう。リリース記事だけでなく、メディア独自のオリジナルコンテンツを制作して頻度高く公開するには、編集者や記者の人数が絶対的に必要になる。スタッフの数が一定規模揃っているWWDJAPANや繊研新聞だから可能なビジネスモデルと言える。

ちなみに、日本のメディアでサブスクリプション型の成功例として有名なのは「日本経済新聞」である。個人プラン月額4,277円(税込)とかなり高額ながら、日本経済新聞の電子版有料会員数は90万人を超える(2024年1月)。やはりサブスクリプション型は、新聞社のようにかなりの数の記者がいなければ成り立たないモデルだろう。

4. クリエイティブ
昨今、企業はオウンドメディアを運営することが増えてきた。メディアを運営するということは、掲載する記事が必要になる。そこで、ファッションメディアが持ち前の編集力を活かし、オウンドメディアの記事を制作する。また、企業の広告をファッションメディアがネットワークを活かしクリエーターを手配し、制作するといったケースもある。編集力というファッションメディアが持つ武器を、他社に提供するサービスがクリエイティブになる。コンサルティングとも言えるが、メディア自ら制作する面もあるため、ここではクリエイティブと称した。

5. セミナー・イベント開催
ファッションメディアが得てきた知見を伝えるセミナーや、ネットワークを活かしてイベントの開催、もしくはイベント開催のコンサルティングを行うビジネスモデルになる。

6. オンラインセレクトショップ
冒頭で触れたハイプビーストがHBXを運営しているように、ファッションメディアが自社でオンラインセレクトショップを運営する。日本のメディアでは「FASHIONSNAP(ファッションスナップ)」が運営する「F/SOTRE(ファッションスナップストオア)」が代表例にある。

7. オリジナルのアパレルライン
メディアが、自社のアパレルラインを立ち上げるモデルである。ファッション界でモダンなメディアアパレルといえば、ベルリンのカルチャーメディア「032c(ゼロスリーツーシー)」が真っ先に挙げられる。ディレクターに「ジル サンダー(Jil Sander)」と「マリオス・ショワブ(Marios Schwab)」などで経験を積んだマリア・コッホ(Maria Koch)を起用し、2015年にローンチ。今年6月に開催されたメンズ2025SSシーズンのパリ・ファッション・ウィークでは、公式カレンダーで最新コレクションを発表するまでに成長した。

以上が、今回取り上げたファッションメディアの注目ビジネスモデルになる。

インターネット登場以前の雑誌の出版と雑誌に掲載される広告がメインだった状況から、現在のファッションメディアのビジネスモデルは多様化した。今は「ネットフリックス(Netflix)」や「スポティファイ(Spotify)」など、映像や音楽をサブスクリプションで体験できるサービスが多く、それらサービスのコンテンツ量は膨大だ。ユーザーが毎月サブスクリプションに支払える予算には限りがある。その意味で、ネットフリックスに勝るとも劣らない体験を提供できるか、あるいはそのファッションメディアでしか得られない情報や記事が読めるかなどの特殊性がないと、メディアがサブスクリプション型を成立させるのは難しい。

ならば、無料で読める形態にしてUUとPVを伸ばす方向に振り切り、広告を掲載するという王道のビジネスモデルが実は有効だとも考えられるし、もしくは大きな費用を要したとしても、メディアがプロダクトを販売するオンラインセレクトショップやオリジナルのアパレルラインも有効な手段であり、それを実践しているのがハイプビーストだと言える。ファッションメディアのコンテンツに注目すると同時に、ビジネスモデルに注目するとメディアの見え方も変わってくる。ブランドやデザイナーに加えて、メディアの在り方にも注目してファッション界を見ると新しい発見にきっと出会えるだろう。

〈了〉

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