ストリートの知で興奮を呼ぶヒドゥン ニューヨーク

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AFFECTUS No.586

「知りたい」。

人間は強い関心を持ったものに対して、あらゆる情報を手に入れようとする。スマートフォンがいつでもどこでも手放せない今、知ることへの好奇心が人類の歴史上、最も高まっている時代が現代だ。2018年、一つのブランドともメディアとも言える存在がニューヨークに誕生した。「ヒドゥン ニューヨーク(Hidden NY)」は、1990年代から2000年代初頭のストリートウェアからの影響を背景にした文脈的コンテンツを発信し、ストリートウェアに関する様々な知を渇望する人々の欲求に応えている。

運営者が誰なのか、何人によって運営されているのか、一切の情報が公表されてない。そんなミステリアスな「ヒドゥン ニューヨーク」の人気が、カルト的なものになっていることはフォロワー数が280万人を超えるInstagramアカウント(@hidden.ny)が物語っている。情報発信地はInstagramだけではない。「ヒドゥン ニューヨーク」は、過去のストリートウェアの文化を掘り下げるメディア「ヒドゥン リサーチ(HIDDEN.RSRCH)」を運営しており、有料ニュースレターを配信している(毎月15ドル:約2,400円、年単位で購読も可能)。このメディア機能がブランドの知名度と人気を高める要因にもなっていた。

記事のテーマは多岐にわたる。「ナイキ」でデザイナーとしてキャリアを重ね、都市生活に適した機能的なアイテムを提供する「グレッグ ラボラトリー(Greg Laboratory)」の創業者グレッグ・ジャクソン(Greg Jackson)、日本のアニメをモチーフにしたTシャツ、バルケットボールのアメリカ五輪代表チームのユニフォームなど、興味深いトピックをテーマにストリートカルチャーの知識を届けている。日本のストリートに言及する記事も多く、「ヒドゥン ニューヨーク」運営者の中には日本人がいるのではないかとも噂されている。

活動範囲はメディアだけにとどまらない。2018年からオリジナルのアパレルアイテムを発表し、人気を獲得するファッションブランドという側面も持つ。入手方法はかなり限定的だ。リリースはいつも不定期で、基本的にはオンラインストアのみでの限定販売だ。購入方法は、一般販売と先述の有料ニュースレター購読者向けの先行販売の2種類があり、先行販売では一般販売の3時間前から購入可能。オンラインストアは最新アイテム発売時しかオープンせず、完売するとすぐにクローズされてしまう。ドレイク(Drake)やファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)といったスターからも支持され、彼らが「ヒドゥン ニューヨーク」のアイテムを着用したこともブランドの注目度をアップさせた。

一見すると、排他的に感じられる販売方法かもしれないが、逆にクローズな手法がファンの関心を強く惹きつけ、アイテムの希少性を高めていた。「アシックス(Asics)」ともコラボスニーカーを発表しており、今年12月にはコラボ第2弾スニーカー「GEL-VENTURE 6 SHIELD」を発表した。「アシックス」ならではのテックなフォルムに、「ヒドゥン ニューヨーク」のシンボルカラーであるグリーンが配色された一足は、レトロな雰囲気が醸し出され、新しさと懐かしさが混じり合う。

アイテムはTシャツ、フーディ、カーゴパンツ、ワークジャケットなど、ベーシックなアイテムとフォルムが基本。素材感は、ペイントを施したり、着古した表情を作り出したり、古着タッチの加工が見られることが多い。目を引くのがグラフィックだ。ブランドのアイコンである「h」ロゴ、「HIDDEN」を軸に据えたロゴ、ドット画像のグラフィックを見ていると、プログラミング言語を見ている機械的な質感を感じる一方で、古いパソコンを見ているような一昔前の懐かしさにも襲われる。

ファッションには見たり、着たりするだけでなく、読むという楽しみもある。ビジュアルだけでは満足できない人々がいる。一目見て痺れるファッションのビジュアルは確かに刺激的。一方で、文字を読んでいるうちに湧き上がる頭の中の想像に興奮するのも事実だ。視覚が重視されるファッションだが、言葉によってもたされる想像も魅力的だということを改めて伝えたい。もう一度言いたい。ファッションには読むという楽しみがある。

アパレルアイテムを発表しているブランドではあるが、「ヒドゥン ニューヨーク」の本質はメディアにあるだろう。現代の最新情報をキュレーションするのではなく、過去から現在に至るストリートウェアやカルチャーに着目し、深いリサーチと考察による記事を提供し、ファッションが大好きで、知識欲が旺盛な若者たちの好奇心を満たす。それが、このニューヨーク発のブランドでありメディアの使命。「ヒドゥン ニューヨーク」は正体を明かすことなく、世界にストリートウェアの文化を明かしていく。

〈了〉

*1月1日(水)はお休みします。次回のタイトルは、1月5日(日)21時に公開となります。

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