次の熱狂を生み出すカルチャーは? サッカーにその可能性は?

スポンサーリンク

AFFECTUS No.588

2010年代以降、ファッション界で最も注目されたのはスケートカルチャーだった。一つの事例として、8年前の「ピッティ・イマージネ・ウォモ((Pitti Imagine Uomo)」で発表されたゴーシャ・ラブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)のコレクションが挙げられる。「フィラ(Fila)」のロゴが入ったTシャツやスウェット、ルーズなブラックパンツ、大ぶりなシルバーのネックレスなど、ロシアの若いスケーターたちからインスパイアされた服は、洗練やクールとは異なる魅力を持つ、新しい価値を提示する。

スケートカルチャーとファッションの融合において、重要な存在が「シュプリーム(Supreme)の創設者ジェームズ・ジェビア(James Jebbia)だ。イギリスで育ち、19歳でニューヨークに移住した彼は、1989年にユニオンNYCをオープン。その後、「ステューシー(Stussy)」ニューヨーク店の運営を経て、1994年にラファイエットストリートで「シュプリーム」を立ち上げた。広々とした店内と高級感のあるインテリアデザインは、従来のスケートショップとは一線を画し、スケーターたちの聖地となる。

「シュプリーム」からは数々の才能あるデザイナーも輩出された。クリエイティブ・ディレクターを務めたブレンドン・バベンジン(Brendon Babenzien))は「ノア(Noah)」」を設立し、ヘッドデザイナーのルーク・メイヤー(Luke Meier)は「OAMC(オーエーエムシー)」を立ち上げ、後に妻のルーシー・メイヤー(Lucie Meier)と共に「ジル サンダー(Jil Sander)」のクリエイティブ・ディレクターに就任。ブランドディレクターのアンジェロ・バク(Angelo Baque)は「アウェイク ニューヨーク(Awake NY)」を設立した。

ファッションの歴史を振り返ると、デザイナーが世の中の隠れたニーズを捉えて具現化した時に、大きな熱狂が生まれている。あるカルチャーで着用されている服に、デザイナーの独創性が新たな進化をもたらし、そのファッションがカルチャーのファン以外にも波及していく現象が、スケートカルチャーで顕著に見られた。

私は次なるファッションの波としてサッカーに期待を寄せている。

近年注目を集めた「ブロークコア」は、イギリス英語の「ブローク(一般男性)」と「ノームコア」を組み合わせた言葉で、1990年代のイングランドのサッカーファンに見られたスタイルに源流があり、クラブのユニフォームにジーンズとクラシックなスニーカーを合わせるスタイルが代表的だ。

サッカーとファッションの関係では、アントワープシックスの一人、ダーク・ビッケンバーグ(Dirk Bikkembergs)がサッカーをテーマとした作品を手掛けている。日本では、幼いころからサッカーをプレーしていた志鎌英明が、自身のブランド「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)」で、イングランドの「アンブロ(Umbro)」やブラジルの「ペナルティ(Penalty)」といったフットボールブランドとコラボレーションを発表し、スケートカルチャーとサッカーカルチャーを融合させた独自の世界観を提案している。

私がサッカーに期待を寄せるのは、一番好きなスポーツという個人的思いから来る願望に近いものがある。幼稚園のころにサッカーの面白さを知り、中学・高校時代はサッカー部に所属。膝の手術をきっかけにプレーする機会は自然と減っていったが、今でもサッカーが好きだという気持ちに変わりはない。現在は、プレミアリーグのチェルシーに所属するコール・パーマー(Cole Palmer)のプレーを観ることが週末の楽しみになっている。

同じボールスポーツのバスケットボールと比較すると、サッカーはまだファッションとの親和性が低い印象がある。しかし、ブロークコアの登場や志鎌英明のグローバルな取り組みなど、新たな動きも出てきている。サッカーの持つ文化的な豊かさと市場規模を考えると、次の新しいファッションの波がサッカーから生まれれば、世界を熱狂させる可能性に十分にあるだろう。

〈了〉

スポンサーリンク