AFFECTUS No.592
2025年の幕開けも、昨年に続きクリエイティブ・ディレクターの人事が大きな話題を呼ぶ。なかでも「ディオール(Dior)」と「ロエベ(Loewe)」の動向が注目を集めている。昨年12月の時点では、「ディオール」のウィメンズ クリエイティブ・ディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が退任し、その後任に「ロエベ」のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が就任するという噂が流れた。また、「ロエベ」のクリエイティブ・ディレクターには、「ジル サンダー(Jil Sander)」のルーシー・メイヤー(Lucie Meier)とルーク・メイヤー(Luke Meier)の二人が就くのではないかとも囁かれていた。
しかし、新年を迎えると状況が変化する。アンダーソンの「ディオール」移籍の噂は変わらないものの、「ロエベ」に関して新たな名前が浮上した。それは、「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」の創業者兼デザイナーであるジャック・マッコロー(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)の二人だ。
この動きを裏付けるニュースも出ている。1月16日、「プロエンザ スクーラー」は、マッコローとヘルナンデスが1月31日をもってブランドを去ることを発表した。ビッグブランドのディレクターに就任するデザイナーが、自身のブランドを離れる(もしくはブランドを終了する)のは珍しくない。この一件が、「ロエベ」の新体制を示唆している可能性は高い。
現時点では、「ロエベ」も「ディオール」も正式な発表を行なっていないが、仮にこの人事が実現すれば、「ディオール」のアンダーソン以上に、私の関心は「ロエベ」のマッコロー&ヘルナンデス体制に集まる。
「プロエンザ スクーラー」は、クールな美学を体現するブランドだ。黒と白を基調としたカラーパレットと挑戦的なカッティングを武器に、構造的面白さを備えたクールなテイストを確立している。同じ系譜のブランドとしては、「ピーター ドゥ(Peter Do)」や「ロク(Rokh)」の名が挙げられるが、「プロエンザ スクーラー」はより成熟したエレガンスを備えている。
マッコローとヘルナンデスのデザインには、かつての「ヘルムート ラング(Helmut Lang)」を想起させる要素がある。「ヘルムート ラング」の実験的要素を削ぎ落とし、。「ヘルムート ラング」のアーバンな洗練を研ぎ澄ませたブランド像を呼び起こす。たとえば、トレンチコートはボリュームのあるシルエットでありながら、ストリート感は皆無。むしろドレスのようにエレガントな仕上がりで、かつフェミニンではなく、メンズウェアに通じるシャープさが漂う。パンツスタイルにも同様の特性があり、女性の中に潜むマスキュリニティをクールに引き出す点で、マッコローとヘルナンデスのデザインは世界でも際立っている。
「ロエベ」は1846年に創業し、2013年にジョナサン・アンダーソンがクリエイティブ・ディレクターに就任して以降、大きく飛躍した。彼は自身のブランド「JW アンダーソン(JW Anderson)」では実験的なアプローチを取るが、「ロエベ」では初期の頃、リアルクローズ寄りの作風を見せていた。しかし近年は、「ロエベ」においても実験性を強め、ミニマリズムを独自に解釈したコレクションを発表している。2025年春夏ウィメンズコレクションでは、花柄のクリノリンドレスを披露し、新たな一面を披露してくれた。
もしマッコローとヘルナンデスが「ロエベ」を引き継ぐとすれば、そのデザインは大きく変化するだろう。「ロエベ」には伝統的なクラフトマンシップが根付いている。その遺産を、クールでアーバンなスタイルを得意とする彼らがどう料理するのか。続報を待ちたい。
〈了〉