プラダが男たちのスタイルにパワーを加える

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AFFECTUS No.594

ラフ・シモンズ(Raf Simons)が「プラダ(Prada)」で、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)と共同クリエイティブ・ディレクターを務めると発表された時、かなりの興奮を覚えた。期待していた「カルバン クライン(Calvin Klein)」での活動が短期間で終わり、当時はシグネチャーブランドが継続していたとはいえ、またどこかのブランドでシモンズがディレクションをして欲しいと願っていたところに、ミウッチャとの共演が発表されたのだから興奮しない方が無理だ。

その後、2020年9月にデビューコレクションが発表されたのだが、ルックを次々と見ていくと違和感を覚え、テンションがあまり上がっていない自分に気づく。その理由について、私なりの解釈を2020年9月26日公開「新生プラダから感じた違和感の正体」に書いたので、ここでは詳細を割愛したい。

楽しみにしていた「プラダ」からの刺激が想像よりも得られず、次第に「プラダ」への興味が失われていく自分がいた。私は基本的に、自分が心から面白いと思ったものしか書かない。もし私が何も書かなかったら、それは関心を引かなかったということを意味する。そのスタンスを持つ自分が、ここ「AFFECTUS」では「プラダ」に関してだけ、いくつか辛口の文章を残してきた。

しかし、2023SSコレクションを見て、私の「プラダ」への印象が変わり始めた。このシーズンに発表されたスーツを主役にしたコレクションは、ビッグシルエットや過剰な装飾とは無縁の、クリーンでシンプルに作られた「プラダ」の最新スーツが新鮮だった。1990年代のミニマリズム全盛期を思わせる「プラダ」のスーツが、ストリートやビッグシルエットが主流だった時代を越え、現代に甦った。そんなスリムシルエットに強く惹きつけられたのだ。

2023SSメンズコレクションを皮切りに、「プラダ」はさらパワーを増していったように思う。先日発表された最新2025AWコレクションでも、「プラダ」はメンズウェアをパワフルに見せていた。

今回も絶妙にスリムなシルエットを披露し、ファーストルックに登場したモデルのトップスは上半身に密着、袖丈は短くネックラインが詰まったクルーネックという仕上がり。男性の肉体美を強調するデザインだ。しかし、スリムと言ってもスキニーと呼べるほど強烈な細さではない。ビッグシルエットの名残が残る、スリムシルエットが作られていた。

テーラードジャケットはコンパクトな肩幅が基本だが、肩幅に広さと厚みを持たせたシルエットも発表。これは、スキニーやミニマリズム全盛期とは異なる2025年の感覚を物語るスリムシルエットだ。ネックラインの縁がほどけたグランジな香りのニットは、オーバーサイズシルエットで袖幅も身幅も広いのだが、全体のシルエットが丸みを帯びており、サイズ大きめのシックな着古したニットを着ているのと同様の落ち着きがあった。さらに、ワークなブルゾンは往年の名作映画に登場する俳優を思わせるスウィングトップ風で、シックなトラウザーズとの組み合わせでカジュアル感を排除して、むしろ上品さを際立たせていた。

今回の2025AWコレクションはクラシックな印象を受けるが、至る所で伝統のメンズスタイルを崩すアクセントが混ぜられ、端正でありながら野生味のある男性像が表現されていた。

一度は心が離れそうになった「プラダ」だが、今では再び惹きつけられている。コレクションには、次の新しい時代を切り拓こうとするパワーが漂う。服そのものに劇的なインパクトがあるわけではない。しかし、様々なファッション要素を組み合わせる配分の妙が、スタイルにそこはかとない個性を生み出している。一気に迫ってくるのではなく、じわじわと迫るパワーこそ、今に私にとっての「プラダ」最大の魅力。次はウィメンズコレクションの発表が控えている。3月にどんなデザインが発表されるのか。今はただ、その時を待つばかりだ。

〈了〉

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