今回の「ダブレット(Doublet)」 @__doublet__ は面白い。ファッションの歴史そのものと言えるパリで、ファッションの歴史をユニークに仕立てたコレクションを発表したからだ。まず思い浮かんだのは、往年のオートクチュール。
襟元・前端・袖口が縁取られたノーカラージャケットを着た女性モデルからはココ・シャネル(Coco Chanel)が、ミニスカート姿の女性モデルやスウィートなローブ姿の壮年の男性モデルが身につけるピンクからはエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)が、そして、繰り返し登場するミニスカートからはアンドレ・クレージュ(André Courrèges)が浮かび上がる。戦前戦後の偉大なクチュリエの名が、次々と頭の中を駆け巡る。
それだけでは終わらない。
日本独自のファッションも顔をのぞかせる。漢字の熟語が並ぶ特攻服を着たヤンキー、セーラーカラーにミニ丈のプリーツスカートという女子高生の制服を彷彿させるルック。それらが呼び起こすのは、1980年代、1990年代、2000年代の日本。「ダブレット」は現在の視点から過去の記憶を刺激していく。
さらに、テーラードジャケット、ストライプシャツ、トレンチコートといったメンズクラシックの要素に、ライダースジャケット、フーディ、ジーンズといったカジュアルの代表作が加わる。ただし、それらはベーシックに作られていない。どこかヤンキーで、どこかストリートな香りに覆われた服に仕上がっていた。
裾が切り裂かれたパンキュッシュなミニスカートも現れ、スタイルの多様性はますます増していく。そして、ついに現れたのはグレーのニットの背面に施された「あの」4本ステッチ。
しかし「ダブレット」にとって世界一有名なステッチすらも創造の対象だった。4本のうち下2本の白糸がやけに長く切り取られ、ゆらゆらと揺れている様子は、ステッチの存在感をさらに際立たせた。
また、アウターの前端を片手で握り締めるポーズには、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が「ジル サンダー(Jil Sander)」時代の2012AWウィメンズコレクションで女性モデルたちに取らせた仕草が重なる。
ただし、「ダブレット」がモデルたちに着せたのは、極上のミニマルドレスではなく、制服を思わせるセーラーカラーやコミカルなキャラクターが映えるローブ。シモンズが極限まで洗練された世界で行った表現を、「ダブレット」は真逆の世界で遊ぶ。
パリのオートクチュールから東京のストリート、過去と現在の天才デザイナーたちまでもが混在するコレクション。それを特攻服に倣い四字熟語で表すなら「玉石混交」だろうか。
いや、少し違う。
「玉石混交」とは、価値あるものと価値のないものが入り混じった状態を指す。しかし、ファッションに価値のないものはない。誰かにとって無価値な服も、誰かにとって価値のある服になりうる。それがファッションの本質だ。
コレクションで発表されたテーラードジャケットは、カラフルな糸がチェーンのように刺繍され、サイズ感はルーズで、ジャケットが本来持っているはずのクラシックが消えている。だからこそ惹きつけられた。
ファッションのルールは守るだけでなく、自由に遊ぶことも大切。イメージは壊してこそ面白い。「ダブレット」のジャケットはファッションの境界を解体し、ファッションを解放していく。







































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