早くも新しさが垣間見えたドリス ヴァン ノッテン

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AFFECTUS No.597

2024年6月からクリエイティブ・ディレクターが不在だった「ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)」。同年12月、ついに新クリエイティブ・ディレクターが発表された。新たに指揮を執るのは、2018年の入社以来、ドリスと共にウィメンズコレクションを手掛けてきたジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)。先ごろ発表された「ドリス ヴァン ノッテン」2025年秋冬メンズコレクションはデザインチームが手がけたもので、クロスナーの関わりは限定的になり、彼の真のデビューコレクションとは言えない。それでも従来にはない新しさが早くも現れていた。

まず、すべてのルックを見た印象を一言で表すならば、「変わった」。刷新と言うほどの大きな変化ではないが、明らかに創業者のコレクションにはなかったテイストが出現している。それは、「気怠い美しさ」である。

モデルたちの視線は、力強くも儚げという、どちらにも取れる表情を見せていた。大きく広がるフレアシルエットのパンツは、2本の筒で構成されているにもかかわらず、ロングスカートのような佇まい。ダブルのテーラードジャケットはラペル幅が広く、ダンディな印象を与える一方で、袖山にギャザーが寄せられたパフスリーブがフェミニンだった。

今回のメンズデザインを象徴するアイテムの一つが、ボウタイ。コート、ジャケット、シャツ、それぞれのアイテムを主役にしたルックの首元には、大きな存在感を放つボウタイが鎮座している。このリボン状のアクセントが、「ドリス ヴァン ノッテン」にセクシャルな香りを運んできた。

注目すべきアイテムは他にもある。それがスカーフだ。頭部を覆い、顎の下で結ばれたスタイリングはロシアの「バブーシュカ」に通じる。バブーシュカ(babushka)は、ロシア語で「三角巾」「ほっかむり」を意味し、伝統的に女性が用いるスカーフスタイルとして知られている。その背景を踏まえて男性モデルたちを改めて見ると、ロシアの女性たちを想起させると同時に、メンズウェアを着用する女性の姿も浮かび上がってきた。

コレクションには、もう一つ異なる側面を持つルックも登場した。バブーシュカを被り、白いシャツと黒のロングコートを着用し、膝下丈のショーツに白ソックスと黒の革靴を合わせたモデルの姿。それは、童話に出てくる少女のようでもあり、フォーマルな装いの少年のようでもある。しかし、実際のモデルは大人の男性だ。このアンバランスさが、今コレクションのメンズデザインの特徴を際立たせる。

2025AWメンズコレクションは性別と年齢が交差する一方で、高貴な人物像は一貫している、ジーンズやTシャツといったカジュアルなアイテムは登場せず、ボウタイ、ジャケット、パンツといったフォーマルな服が繰り返し登場してコレクション全体に品格をもたらしていた。

今回のメンズコレクションは、現在の「ドリス ヴァン ノッテン」の顧客からどのような評価を受けるだろうか。支持する人がいる一方で、ファンの中には戸惑う人たちがいるかもしれない。だが、ブランドの系譜を継承しつつも、新しい個性を強く打ち出したアプローチは賛辞されるべきものだ。

偉大なデザイナーの継続路線を選ばず、思い切って新しい色を打ち出したこと。これまでの「ドリス ヴァン ノッテン」とは異なるメンズの人物像を提示したこと。もしドリス自身がデザインしていたなら、もっと渋く、クラシックな香りの強い男性像になっていたはずだ。

クロスナー体制による新生「ドリス ヴァン ノッテン」が本当のスタートを迎えるのは、3月に発表される2025AWウィメンズコレクションになる。クロスナーの真価が明かされるその日を静かに待とう。

〈了〉

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