AFFECTUS No.601
ついに「カルバン クライン(Calvin Klein)」がニューヨーク・ファッションウィークの最前線へ戻ってくる。2024年5月、コレクションライン「カルバン クライン コレクション(Calvin Klein Collection)」のクリエイティブ・ディレクターにヴァロニカ・レオーニ(Veronica Leoni)の就任が発表された。同時にランウェイへの復帰も発表され、ショーの開催はラフ・シモンズ(Raf Simons)最後の発表となった2019SSシーズン以来、6年ぶりとなる。
レオーニは「ジル・サンダー(Jil Sander)」「セリーヌ(Celine)」で経験を積み、2021年に自身のブランド「クイラ(Quira)」を設立。「クイラ」の特徴については、詳しくは2022年12月21日公開 Nol.389「クイラが披露したミニマルウェアを更新するための公式」で言及したが、レオーニの実力は高く評価され、2023年には「LVMH プライズ」のファイナリストにも選出された。シンプルなシルエット、静かなトーンの色彩、フェミニンとマニッシュの狭間をいくミックス感覚、それらが一体となった「クイラ」のミニマルウェアは間違いなく一見の価値がある。
レオーニが伝統あるニューヨークブランドをどう手掛けるのか、彼女のディレクター就任が発表された時からずっと気になっていた。そして2月7日、ニューヨークファッションウィークの公式スケジュールで「カルバン クライン コレクション」2025AWコレクションが発表される。ランウェイを歩くモデルたちのスタイルは、ブランドのDNAへの回帰を示すものだった。
ブラック、グレー、ホワイト、ベージュを中心に、燻んだパープルやレッド、ブルーの差し色が控えめに加えられたカラーパレットは極めてシンプル。アイテムもスーツやチェスターコート、トレンチコートといった、オフィススタイルの定番と言えるものが中心を占めている。
この構成は、かつての「カルバン クライン」。ただ、シルエットもシンプルかというと、それは少々違う。ドレープやボリュームを取り入れたビッグフォルムのコートやドレスが登場し、デザイン性の強さもしっかりと作り込んでいる。
まさにシモンズ時代のコレクションとは完全に別世界で、ブランドの伝統へ回帰するデザインだ。今シーズンのルックを見ていると、ウィメンズラインをフランシスコ・コスタ(Francisco Costa)、メンズラインをイタロ・ズッケーリ(Italo Zucchelli)がディレクターを務めていた時代を呼び起こす。シモンズが就任するまでニューヨークブランドを指揮していた二人のデザインは、シンプル&クリーンを掲げたもの。特にレオーニとの関連性を感じさせるのはコスタのデザインだ。
私はコスタが描いたクールな女性像の「カルバン クライン」が好きだった。テーラードジャケットを着用する女性モデルたちの姿は凛々しく、切れ味鋭いモードなオフィススタイルを完成させていた。ガラス張りの高層ビルを背景に撮影すれば、最も輝く服。それがコスタの「カルバン クライン」だ。レオーニのコレクションにも、ジャケットを多用した構成やクリーンなムードに、コスタ時代との共通点が垣間見える。
一方で、レオーニらしいノマド的アプローチが特徴的だ。布地を体に纏わせたようなドレープやボリュームを取り入れたデザインは、コスタ時代の都会的でシャープな印象とは異なり、柔らかく優しいミニマルウェアを演出している。彼女が得意とする量感のあるフォルムは、新しい「カルバン クライン」の可能性を示唆しているようだ。
しかし、これらのデザインは好印象である一方、やや物足りなさも感じさせる。同じくミニマルを追求する「ザ ロウ(The Row)」といった競合ブランドが存在する中、現時点では独自性が十分に発揮されているとは言い難い。むしろ彼女の個性が抑えられているような印象すらある。「クイラ」で見せていた鮮やかな色彩感覚やフォルムデザインが、より積極的に取り入れられれば、さらに魅力的なコレクションになるのではないだろうか。
現在のファッション界は猶予期間が短い。サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)がわずか2年で「グッチ」を退任したように、「カルバン クライン」もビジネスが不調と判断されれば、容赦なく次の手が打たれる可能性がある。今回のデビューコレクションはスタート地点に過ぎないが、次のシーズンで彼女がどう展開するのかが、ブランドの未来を大きく左右するだろう。まだ1シーズン目、されど1シーズン目。次のショーに注目していきたい。
〈了〉