静寂のエレガンス、それがヴェロニク・ブランキーノ

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AFFECTUS No.603

今日は、かつて私が好きだったウィメンズブランド「ヴェロニク・ブランキーノ(Veronique Branquinho)」を紹介したい。過去形なのは、今はもう存在しないブランドだからだ。ベルギーの名門・アントワープ王立芸術アカデミーを卒業したブランキーノは、1997年に自身の名を冠したブランドを設立した。シグネチャーブランドを立ち上げる前は、ラフ・シモンズのもとで働いていたこともあり、二人は恋人関係にあったとも言われている。また、イタリアの老舗レザー企業・ルッフォ社によるプロジェクト「ルッフォリサーチ(Ruffo Research)」では、シモンズがメンズを、ブランキーノがウィメンズを担当し、同時期に起用されていた。

シンプルな黒のハイネックトップスは、体にフィットするスレンダーなシルエット。ブラックスカートはAラインを描き、丈は床に届くほど長い。黒一色に統一されたルックに、プリントや装飾的なディテールは皆無。驚くほどあっさりとした服が、パリのランウェイを歩く。

ブランキーノの服には慎み深さがあった。大胆な色使いや前衛的な造形とは無縁で、ブラックやグレーなどのシックな色彩が中心。ボディラインを優しくなぞるスレンダーシルエットが特徴的で、アイテムもベーシックなものが多い。シグネチャーアイテムの一つがプリーツスカートだ。1998AWコレクションには、彼女らしいプリーツスカートのルックが登場していた。

ピンクのハイネックカットソーにライトグレーのVネックニットを重ね、その上から同じくライトグレーのカーディガンを羽織る。ボトムはライトグレーの膝下丈プリーツスカート。トップスのピンクが鮮やかに映えるが、全体の印象はあくまでもコンサバティブ。しかし、その慎ましさがエレガントで、一度見たら忘れられない魅力がある。

1998AWコレクションでは、ハイネックカットソーが繰り返し登場する。スリムなグリーンのハイネックカットソーには、チャコールグレーのロング丈プリーツスカートを合わせる。特別なディテールも、奇抜なフォルムもない。それでも目を奪われる。ブランキーノの服は、抑制された美しさで見る者の心を捉えていた。

彼女のコレクションは、一見すると紳士服のスーツ生地で仕立てたかのような印象を受ける。しかし、メンズライクな服を作っていたわけではない。テーラードジャケットはコンパクトな肩幅とストレートなシルエットで作られ、メンズジャケットのような逞しさはない。マスキュリンとフェミニンの狭間にある服と呼べる絶妙なバランスがあった。

一方でブランキーノの服には、ガーリーな表情を感じることも多かった。しかしそれは、カラフルなプリントやフリルシャル、ティアードスカートのような甘さではない。それでも、ブラックやグレーのシンプルな服に少女の面影が宿る。ロング&リーンのシルエットが着る人を繊細で儚げに見せる。その姿にはどこか可憐さが漂っていた。

大人の女性の中に眠る、幼い少女の表情。その一瞬の儚さと気高さを、ブランキーノの服は見事に映し出していた。ミステリアスでエレガントな世界だ。

ブランドは2009年に一度休止し、2012年に再始動するが、2017年に再び休止。しかし、私の記憶の中には今も残っている。可憐にして凛々しい女性たちの姿が。ヴェロニク・ブランキーノは、私にとって忘れられないデザイナーの一人だ。

〈了〉

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