AFFECTUS No.607
ルーク・メイヤー(Luke Meier)とルーシー・メイヤー(Lucie Meier)の退任が発表されたことを受け、前回「ジル サンダー(Jil Sander)」について取り上げたばかりだが、今回は「ディーゼル(Diesel)」にフォーカスする当初の予定を変更し(次回に公開)、急遽「ジル サンダー」について言及したい。何せ、一昨日に早くも新しいクリエイティブ・ディレクターが発表されたのだから。メイヤー夫妻の後任として起用されるのは、2023年から「バリー(Bally)」のクリエイティブ・ディレクターを務めていたシモーネ・ベロッティ(Simone Belloti)だ。
メイヤー夫妻の後を継ぐのは、「バーバリー(Burberry)」のダニエル・リー(Daniel Lee)ではないかと噂れていた。しかし、「ジル サンダー」を保有するOTBグループの会長レンツォ・ロッソ(Renzo Rosso)は、新しい才能にブランドの命運を託す。リーと比較すれば、ベロッティの知名度は劣るだろう。だが、ベロッティは堅実に実力を磨いてきたデザイナーだった。
イタリア人であるベロッティはミラノの服飾学校卒業後、数多くのブランドでデザイナーとしてのキャリアを積む。「A.F.ヴァンデヴォースト(A.F.Vandevorts)」から始まり、「キャロル クリスチャン ポエル(Carol Chirstian Poell)」、「ジャンフランコ フェレ(Gianfranco Ferré)」、「ボッテガ ヴェネタ(Bottega Veneta)」、「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」を経て、2007年に「グッチ(Gucci)」へ入社。「グッチ」ではフリーダ・ジャンニーニ( Frida Giannini)とアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)のもとで主にメンズデザインに関わり、約16年間、同ブランドで経験を重ねた。
そして2022年に「バリー」へと移り、デザインディレクターの要職を担う。「バリー」ではクリエイティブ・ディレクターに就任した、ロサンゼルス発「ルード(Rhude)」のルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villaseñor)を支えるはずだった。しかし、ビラセノールはわずか14ヶ月で退任してしまう。空席となったディレクターに指名されたのが、ベロッティ。ここで、彼の名が世の中に知られることになる。
「バリー」でベロッティはどんなコレクションを発表していたのか。それは、彼が「ジル サンダー」の美学を受け継ぐにふさわしいデザイナーであることを証明するものだ。
ブラック、ネイビー、ホワイトを主軸に、レッド・ブルーなど鮮やかな色を差し込むカラーパレットは、まさに「ジル サンダー」そのもの。プリント生地がないわけではないが、その数は極めて少数。装飾性の抑制は造形にも当てはまる。カッティングとボリュームで勝負するデザインが、ベロッティの特徴だ。
2025SSコレクションでは肩を強調する、着丈を短くするなどベーシックな形は崩さず、横と縦のバランスの面白さで勝負するかと思えば、オートクチュールドレスを彷彿させる立体感を披露した。「バリー」でのラストシーズンとなった2025AWコレクションも、同様のアプローチでクリーンな服を仕立てる。過度な主張はない。厳かに静かに美しく。それがベロッティのデザインである。
「バリー」のコレクションを見ていると、おそらくベロッティ指揮下の「ジル サンダー」は、創業者の美学ミニマリズムに回帰するのではないかと思えてきた。新しいブランド像を築いたメイヤー夫妻の「ジル サンダー」は、前回述べた通り色と形はシンプルだが、フリンジ・スパンコールなど民族衣装を思わせる装飾性が所々に使われ、プリミティブなアーバンウェアというのが実態。
メイヤー夫妻のコレクションは素晴らしかった。一方で、ミニマリズムに立ち返った「ジル サンダー」も見てみたい。その願いをベロッティは叶えるだろう。緊張感と上品さが占めるミニマルウェアが復活するはずだ。現時点で、デビューシーズンは明らかにはなっていない。いったい、どんなコレクションを発表するのか。世界はその日を待っている。
〈了〉