メリル・ロッゲが、上品な下品をより上品へ

スポンサーリンク

AFFECTUS No.610

デビューコレクションには、デザイナーの個性が色濃く表れるもの。荒々しくて、未完成に見えることもあるが、そこには抑えきれない感情や瑞々しい感性が宿る。そんなファッションが人の心を動かす。メリル・ロッゲ(Meryll Rogge)の服も、まさにパワーを持っていた。

ロッゲが2020AWシーズンのデビュー時から異例の注目を浴びたのは、彼女が積み上げてきたキャリアの影響が大きい。アントワープ王立芸術アカデミーを卒業後、ニューヨークで「マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)」のチームに加わり、その後ベルギーへ戻り「ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)」へ。最終的にはウィメンズラインのヘッドデザイナーを務めるまでになった。

世界的なデザイナーのもとで経験を積み、パリでも評価されるブランドのデザインをリードしてきた人物が、自らのブランドを立ち上げる。それが話題にならないわけがない。

キャリアを重ねたデザイナーが独立すると、師の影響が色濃く出るケースも多い。しかし、ロッゲは違った。彼女は最初から「上品な下品」という感性を武器に、オリジナルの世界を確立していた。デビューシーズンの2020AWコレクションは、「ドリス ヴァン ノッテン」に通じるエレガンスを持ちつつ、キッチュでサイケな色使いが特徴的だった。

それからシーズンを重ねるごとに、ロッゲは自分のスタイルを更新し続ける。2022AWコレクションはチープに感じさせる柄のデザインとその組み合わせを、スポーティ&カジュアルのスタイルで提案。2023SSコレクションはストリート感にあふれるコレクションで、赤地に白文字のプリントが「シュプリーム(Supreme)」を彷彿とさせた。

2024SSコレクションでは、ワークウェアやジーンズといったベーシックアイテムをロッゲならでは解釈で制作。シャツのカフスは外れそうで、地味なはずのワークジャケットは鮮烈な赤が眩しく、ジーンズを穿き、キャップを被った女性モデルはドレープでアシンメトリーに形作られたトップスをレイヤードし、カジュアル vs ドレッシーの対比を見せる。ロッゲが得意とするサイケな感性が着こなしと細部に現れ、「普通ではない普通の服」を生み出した。

そして迎えた2025AWシーズン。最新コレクションでロッゲは、新たなアプローチを見せる。トラッドをベースにした上品なカジュアル。ただし、それは決して整然としたエレガンスではない。着丈が極端に短いニットベスト、前下がりが大きく、肩のラインがなだらかに膨らんだチェックのステンカラーコート、見返しが剥がれかけたコートの襟、唐突に挟み込まれたフリル……。

すべてのアイテムに、ささやかな癖が加えられていた。ロッゲは完璧な調和ではなく、不規則な要素を意識的に織り交ぜる。

イレギュラーなディテールをトラディショナルな生地やアイテムに落とし込むことで、2025AWコレクションはデビュー時の「上品な下品」を再び思わせるものになった。ただ、今回はより洗練され、大人の香りが強い。上品な下品が、より上品に進化する。

ロッゲの服には、おもちゃ箱を見ているようなゴチャ混ぜの遊び心、キッチュな感覚がある。しかし、それはただのカオスではない。すでに完成されたベーシックウェアの上にカオスを作るからこそ、雑然さが際立つ。これが破天荒なフォルムやディテールと共に作られていたら、ロッゲの感性は埋もれてしまう。意図的なカオスとも呼べるアプローチだ。

もう、彼女のブランドを語るのに師の名前を出す必要はない。メリル・ロッゲは、「メリル ロッゲ」というブランドを完璧に確立したのだから。

〈了〉

スポンサーリンク