AFFECTUS No.612
「おいおい、そんな服どこで着るんだよ?誰が着るんだよ?」
そんなファッションに出会いたいことはないだろうか。間違いなく自分は着ない。しかし、そう思ったのは最初だけ。気がつけば、あのジャケットを着たくなっている。もし、そんな服に出会えたら、ファッションはもっと楽しくなる。最初は困惑や怒りを覚えながらも、やがて魅了される。そんな服こそが「アヴァンギャルド」だ。
ただし、単に「ぶっ飛んだ服」では物足りない。求めるのは「リアルなアヴァンギャルド」。例えば、2000年代の「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」。現実的な服を前衛的に作り変えても、元の服の痕跡が残っていた。象徴的なのは2006AWの「Persona(ペルソナ)」。メンズのクラシックとウィメンズのドレッシーな要素がぶつかり合うコレクションは、リアルなアイテムを基盤にしながらも鮮烈なインパクトを生み出した。
「ホダコヴァ(Hodakova)」は、そんなリアルなアヴァンギャルドを体現する。スウェーデン出身のエレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)が2021年に設立したブランドは、クラシックを捻り、独自の視点で作り変える。テーラードジャケット、トラウザーズ、白いシャツといった伝統的なアイテムを、意表を突くアプローチで再構築する。
2025AWコレクションの主役はシックなパンツ。ただし、ホダコヴァが作るパンツは、単なるボトムでは終わらない。
まず、パンツの筒が巨大化し、ワンピースへと変貌したアイテム。腕を通す穴すらない、拘束具のようなデザインはシュールだ。さらに、パンツの側面に顔が入るサイズの穴を開け、モデルがそこから顔を出すデザインも登場。折り畳んだパンツを頭から被るこの服は、類似するアイテムはバラクラバだろうか。もはやアイテムのカテゴリーに収めることが困難。「ヘッドウェア」と呼ぶべきか、別の何かかだ。
パンツの膝部分に穴を開け、そこから頭を通してトップスにするアイテムも登場した。前身頃にはウエスト部分、後身頃には裾が垂れ下がっている。Tシャツやニットと比較するのが無意味な、新しいトップスの形だ。もし街中やオフィスでこのパンツトップス(意味のわからない服だ)を着た女性を見かけたら、視線を集めることは間違いない。
さらに、ホダコヴァは究極のクラシックをアヴァンギャルドに昇華させた。バイオリンを帽子に転換したアイテムが登場する。額に乗せただけの「帽子」は、まさにコンセプチュアル。そして、ショーの最後を飾ったのが「コントラバスワンピース」。コントラバスをワンピース化し、弦やペグを取り除いたこの服を、モデルはネック部分から顔を出して着用する。だが、アームホールはなく、再び拘束具のような構造に仕上がっている。
楽器を服にする。これこそ究極のクラシックであり、リアルなアヴァンギャルド。
とはいえ、「ホダコヴァ」はおかしな服ばかり作っているわけではない。日常的に着られる服もあり、それがまた魅力的だ。特に印象的だったのは、スリムなパンツルック。現代のシルエットの潮流を捉えたパンツは、ロックやパンクのムードを纏い、スターのような佇まいを生む。
しかし、ホダコヴァの最大の魅力はやはり実験性だ。アヴァンギャルドから最も遠いクラシックを出発点にするため、決してポップではない。それでも、シリアスなユーモアが光る。ファッションは、着られるかどうかだけではない。モードにはエンターテイメントも必要。「ホダコヴァ」は、その本質を奏でる。
〈了〉