訪れた人々を歓迎する煌びやかなドレス
展示会を訪れるたびに、造形センスに惹かれる大野陽平が設立した「ヨウヘイ オオノ(Yohei Ohno)」。会場を訪れると、中央にはシルバーに輝くロングドレスが飾られていた。そのシルエットは「ヨウヘイ オオノ」が得意とする立体感のあるデザインではない。むしろクラシカルな印象を受けるシルエットだ。ブランドを象徴するデザインとは異なるデザインのアイテムを、会場の中で最も目立つ場所に置いたことに、何か秘めたる決意のようなものを感じたのは気のせいだろうか。

華やかドレスの足元にはシューズが並ぶ。上品な佇まいのフラットシューズだが、中央の一足をよく見るとチェスの駒のナイト(騎士)だろうか、銀色に鈍く光るモチーフがいくつも取り付けられていた。ポップとは違うシリアスなユーモアも「ヨウヘイ オオノ」が持つ魅力の一つだ。

そしてシューズの隣にはハードな素材感のアイテムが広げて置かれていた。どこかボンテージ的な印象も受けるアイテムである。

シンプルなパターンを武器にコレクションに迫力を生む
いよいよラックに掛かった服を一点一点見ていく。一転して、このブランドらしい曲線的な立体感を持ったフォルムが次々と登場する。デザイナーの個性が露わになるコレクションに「迫力」は欠かせない。しかし、何も形だけがデザイナーの個性を表すのではない。服をどのように作るかという「手法」にも、デザイナーの個性は現れる。



ダイナミックな服を作る場合、複雑さが選択されるケースは多い。一目見ただけでは判別できないパターンメイキング、一般的にアパレルでは使うことのない素材、それらを組み合わせて服を複雑に作り込む。そうして完成したジャケットやドレスには迫力が生まれ、コレクションは個性を獲得する。
しかし、大野は複雑さを選択しない。彼は極力シンプルな手法でダイナミズムを作り出す。そのことを物語るように、今回のコレクションは、四角や円形といったシンプルなパターンで作られたアイテムが多い。


シンプルなパターンで作られたシャツは、浮遊感のある造形を形づくる。そして、同時に構築的でもある。曲線という丸みを帯びたパターンであっても、「ヨウヘイ オオノ」のフィルターを通せば彫刻的な佇まいに変わる。

袖を通せば新しいボディラインが立ち上がってくる。それが、大野の真骨頂と言えるデザインだ。「ヨウヘイ オオノ」のブルゾンを着て街に飛び出せば、高層ビルが建ち並ぶ東京でも、立体的なシルエットは目を惹くだろう。
これまでよりも、さらにシンプル化したアプローチ
先述したように「ヨウヘイ オオノ」の服づくりは複雑さとは距離を置いている。造形が特徴のブランドだが、複雑なテクニックに頼ることなく、シンプルなカッティングで人間の身体を硬質なエレガンスに見せる。ただ、今回はさらにシンプル化が進んだ印象を受けた。実際、簡素な図形をモチーフにしてコレクションは構成されていた。
シンプル化がさらに進んだことが、「ヨウヘイ オオノ」の造形力を際立たせる結果となる。そして、作り込みが抑制されたことで、より静かなエレガンスを漂うことになった。気品が香る服は、太陽の光がよく似合う。グラフィカルなアイテムもあったが、その見せ方もシンプルだ。

「ヨウヘイ オオノ」は日本では正統派エレガンスを感じさせてくれる、数少ないウィメンズブランドだと言っていい。今回はラグジュアリーな香りも漂っていた。

次回のコレクションはさらにエレガンスが増すのか、あるいはラグジュアリーな香りを強めるのだろうか。それとも、その二つが融合するのか。「ヨウヘイ オオノ」は自身のアイデンティティに磨きをかけていく。
Official Website:yoheiohno.com
Instagram:@yohei_ohno