いよいよ2026SSシーズンが開幕。最新シーズンの展示会レポート第1弾は、前シーズンにデビューした「べメルクング(Bemerkung)」2026SS展示会からスタート。今回が2シーズン目となるべメルクングの概略について、改めてお伝えしたい。デザイナーは、約15年パタンナーとしてキャリアを積んだ池田友彦。「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」に8年間勤務し、「コム デ ギャルソン オム プリュス(Comme des Garçons Homme Plus)」のパタンナーとして経験を積んだ後、2025年に自身のブランドであるべメルクングをスタートさせた。
前シーズンは1月下旬から2月上旬にかけて、代々木上原のセレクトショップ「ブレス・バイ・デルタ(Breath By Delta)」でプレオーダーを開催し、多くの人たちが訪れた。
べメルクングの服は、挑戦的なパターンとコンセプチュアルな発想に特徴がある。
複雑に作り込まれたジャケットやシャツの構造は、コム デ ギャルソンの精神が息づいていることを証明する。前回は「Tシャツ」をテーマに既存のTシャツのパターンを解体し、様々なアイテムに再構築して新しい服を作り上げた。
完成したコレクションには、構造は川久保玲のマインドを彷彿させつつも、コム デ ギャルソン オム プリュスとは異なる軽妙さが生まれていた。挑戦的であると同時に、日常で軽やかに着られるモードウェア。それがべメルクングだ。
素材へのアプローチも興味深い。昨今はオリジナル素材の開発が主流で、原料は最高峰を選定し、織りや編みの構造、加工技術、様々な工夫がなされた素材が個性を作る。一方、池田のべメルクングは古着や既存の服といったように、使い古された服、既視感のある服、服そのものを素材に見立て、独創的なパターンで保守的なメンズウェアを更新していく。この実験性が、ハイクオリティ素材によるクリーンな服とは別の世界線を創り上げている。
最新シーズンの2026SSコレクションも、べメルクングの個性が発揮されていた。今回は「シャツ」をテーマに取り組む。



会場を訪れると、壁に解体されたシャツが展示されていた。古着のシャツや既存のシャツを解体し、その解体したシャツのパターンを別のアイテムのパターンとして利用する、あるいは解体したパーツをはぎ合わせて生地状にしたものを、アイテムのパターンに裁断して利用する手法が取られていた。一着の服を作るために、多くの時間と大きなエネルギーを要する工程を踏んでいる。
今回、素材のアプローチで面白かったのは「毛芯」を表地として使用していたことだ。

通常はジャケットの前身頃やラペルの内側に隠れる毛芯を、表地として使用。コートの前身頃にはハ刺しが刺されていた。裏地にはシャツを用いて、袖はシャツとコートのレイヤード構造になっている。

シャツと言っていいのか、ワークジャケットと言っていいのか、アイテムの定義に戸惑う一着にも毛芯を使用。襟と左前身頃を見るとハ刺しが確認できる。


解体されたシャツは、ボトムにも展開され、袖・ポケット・前立ては思わぬ場所に突如として現れる。

写真を撮り忘れてしまったが、シャツの袖をTシャツにドッキングさせたアイテムもあった。半袖と長袖、袖が4本あるTシャツは、どの袖に通しても着ることが可能。シャツの長袖はTシャツの前身頃脇よりに取り付けられているため、長袖に腕を通すと、Tシャツのボディは歪な形状に変換する。服そのもので形を個性化するだけでなく、服の着方によって形を個性化する手法も、べメルクングの特徴だ。

毛芯に使う馬の毛を使用したニットもあり、ユーモアが滲む。作り方はシリアスだが、アイテムに力の抜いた空気を注ぐのもべメルクングの見逃せない点になる。
現在、メンズウェアでここまで実験的な服は珍しい。実際に服を着てみると、不可思議な表情が体の上に現れるアイテムが多く、服を着ているというよりも「概念」を身に纏う感覚になる。だが、発想のベースがベーシックウェア・既存の服にあるため、現実からの逸脱がギリギリのリアリティに収まっており、日常で着られる面白さがある。このバランス感覚が、デビューシーズンからファンを獲得した一因ではないだろうか。


池田の服づくりは、話を聞く面白さがあると同時に、あの内容を言葉にして伝える難しさがある。いつかロングインタビューがしてみたいし、べメルクングの服を新たにスタイリングして独自のルックでビジュアルを撮影し、インタビューと合わせた特集記事に取り組んでみたい。そう思わせる魅力があるメンズブランドだ。
Instagram:@bemer_kung