かつて「ヴィクター&ロルフ(Viktor & Rolf)」という不世出の才能を生んだオランダから、今また、ユニークなビジョンを持つブランドが現れた。それが、今回の展示会で目にした「ジューン ジュナム(Joone Joonam)」である。
アムステルダムを拠点にするジューン ジュナムは、伝統的なクラフトと現代的なテクニックを融合させ、歴史上の衣服を現代の装いに翻訳する。そうして完成した服には、古のテキスタイルが今に語りかける、新しくも懐かしい気配が息づいている。
デザイナーの名は、アルミア・ヨセフィ(Armia Yousefi)。彼は4年間のテーラリングプログラム修了後、KABK(ハーグ王立美術学院)とHKU(ユトレヒト芸術大学)の両校で計4年間ファッションを学んだ。フリーランスとしての活動したのち、オランダのデザイナーのもとで経験を積む。
フリーランスの経験を通じて気づかされたのは、「自分のやりたいこと」。手元にあったのは、たった4,000ユーロと「一度きりでもいいから、自分のコレクションを作ってみたい」という強い思いだった。初めてのコレクションを携えてパリへ向かったヨセフィは、日本のショップとの出会いをきっかけに、その反響に背中を押されて自身のブランドを本格的にスタートさせた。
歴史上の衣服からインスピレーションを得るという、ヨセフィの発想プロセスをもとに2025AWコレクションを見た時、魅力を感じたアイテムを紹介したい。

正統派ギンガムチェック柄のシャツ──かと思いきや、チェックの四角はやや滲み、エッジがぼやけている。そのためギンガムチェックに見えると同時に、ハウンドトゥース(千鳥格子)にも見えてきた。シンプルなアイデア一つで、ギンガムと千鳥格子、二つの伝統柄の境界線を溶かす。ジューン ジュナムのセンスが垣間見えるデザインだ。
色彩豊かなフローラル刺繍は、シャツというベーシックウェアに絵画的存在感を与え、大きめにデザインされた衿は、トラディショナルなバランスをかすかに崩す。見る側の視点や意識が変わるたびに、別の「面」が立ち上がってくる。そんな多面的構造に、キュビズム創始者のひとり、ジョルジュ・ブラック(Georges Braque)が重なった。

ベーシックの中のベーシック、ジーンズも「ズラし」が生じていた。通常、ジーンズの脇線は直線にカットされているが、ジューン ジュナムの脇線は湾曲し、コインポケットは通常のジーンズよりも上部へ迫り出している。特に大腿部が大きく膨らんだフォルムは、「ホーズ」や「プールポワン」など、16世紀から17世紀のルネサンス〜バロック期のヨーロッパに登場した男性用パンツの形が、現代にこだましているかのようだ
また、デニム生地は前後で色味が微妙に異なっている。ジューン・ジュナムは、前後で同じ生地を使用するというパンツ作りの常識もほのかにずらす。

コートにも、いくつかのアウターの影が混じり合う。

ステンカラーとダッフルの融合を思わせるコートは、切りっぱなしディテールでクラシックの上品さを揺らす。生地端のカットもジグザグに裁断され、メンズウェアの伝統が別の軌道にずらされていく。ダンディズムの向こう側から、ユーモアと違和感が歩み寄る。そんな一着だ。


ニットに至っては、クルーネックとシルエットだけが、かろうじて衣服伝統のルールに踏みとどまっている。異なる素材と色彩がドッキングし、ファッションの面白さを謳う。
そして、ジューン ジュナムはユニセックスとして展開しているため、女性も男性も好きなデザインが着用可能。最終的にはジェンダーの境界線も溶かす。
このブランドの秀逸な点は、実験的なアプローチを見せているが、ファッションとしては日常的に着られるバランスに着地させていること。けれども、単なるベーシックとは明確に違う「規格外の普通」。



トレンチコートやチェックシャツといった名作アイテムを、ブランドの世界観を通して表現する。それは現在のファッションデザインでは、頻繁に見られる手法だろう。その場合、これまではリアリティ寄りに完成していることが多かった。だが、そろそろファッションの面白さを、ファッションの夢を、ジーンズで創ってもいい時期ではないか?
幻想的な“Levi’s 501”。歴史からファンタジーを生み出す。そんな服をきっと作ってくれるのが、ジューン ジュナムというブランドだ。
Official Website:joonejoonam.nl
Instagram:@joonejoonam