6月17日、2026SSシーズンの先陣を切って「シュガーヒル(Sugarhill)」が、最新コレクションのショーを開催する。ショー会場の最寄駅、新大久保駅に下車。新宿から一駅となりだが、双方の駅前の風景はまったく異なっていた。改札を抜ければ建ち並ぶビルが見え、開発が終わらない新宿。改札を出ると、見上げるほど高いビルは見当たらず、建物の密集度が高く、歩道も狭い新大久保。人々の声が行き交う新宿と新大久保、その賑わいの種類は異なり、新大久保には雑多的で多文化的なムードが色濃く立ち上がっていた。
駅から歩き、5分もしないうちにショー会場となった淀橋教会に到着。円形に椅子が配置され、ランウェイの中央では「踊ってばかりの国」の下津光史が弾き語りをしている。ショーが始まるまでの空白の時間を、下津の声が埋めていく。
会場中央の上空でミラーボールが回るなか、ランウェイに設置されたスポットライトが灯され、ショーが開幕する。
さびれた質感のレザージャケット、肌を大胆に透かす黒いシャツ、ところどころに穴があいて白い繊維がゆらめくジーンズ、そしてショー終盤にはダブルブレステッドのブラックスーツも登場。コレクションには、ミリタリー、ワーク、クラシックと異なるジャンルの服が現れた。だが、一貫しているのはハードな仕上がり。デニム素材のダメージは男の服の逞しさを、バイカーズジャケットやテーラードジャケットなど、ブラックウェアの力強さは男臭さを語る。
モデルたちが身につけるヘッドギアやキャップには、ストリートの感性が匂う。生地端を切りっぱなしにして接ぎ合せた切り替えや、編み上げなどのクラフトなディテール。そして、ウエスタンな柄がエスニックな香りを引き立てていた。
ルックはアメリカンカジュアルが大多数を占めるが、時折ハードな服とは一線を隠すシックなシャツスタイルやジャケットスタイルが、挟み込まれていた。それらのルック数の少なさが、男のリアルを語っているようでもあった。どんな男にもシックに装わねばならない日がある。
「たまにはスーツも着なきゃな」
そんな声が聞こえてきそうだった。
肌を隠さなければならない日もあれば、肌を見せる日もある。いや、「見せたい日」といった方が、シュガーヒルにはふさわしい。エロティックなムードも忘れてはならない。前あきが大きく開いたシャツは胸元を強調し、薄い布地から透ける肉体が、秘められたものを明らかにする。怪しさこそ、シュガーヒルのエロティシズム。
フィナーレで一列に連なって歩くモデルたちが、シュガーヒルという名のコミュニティに集った若者たちに見えてきた。自分の美学を何より大切にし、たとえ世の中で常識とされる価値観であっても、受け入れられない価値観なら拒否する。そんなマインドを持つ男たちのためのユニフォームが、シュガーヒルではないだろうか。
ヴィンテージな素材感やワイルドなスタイルが作り出す世界観は、想像以上に濃く、深かった。ファッションは自分の内側を表現するもの。その原理原則が貫かれている。そしてそれがとても清々しく、爽やかだった。ショー終了後に感じたのは、グランジな服とは正反対の感情。
人が美しさを感じるものは、鮮やかなカラーパレット、優雅なフレアシルエットやドレープだけとは限らない。自分の美学を貫く姿勢にも美しさは宿る。グランジでパワフルなアメリカンスタイルを貫くデザイナー林陸也の創作姿勢と、完成したコレクションは、パリのオートクチュールとは別のエレガンスを提示する。
ショーを見終えて歩いた、新大久保駅までの帰り道。夏の近づきを知らせる生ぬるい風が、やけに心地よく感じられた。
〈了〉
ショーのフィナーレ映像 → Instagram: Sugarhill 2025SS Collection
Official Website:sugarhilltokyo.com
Instagram:@sugarhill_tokyo