Exhibition: Doublet 2026SS

“いただきます / Itadakimasu”をテーマに、2026SSコレクションを発表した「ダブレット(Doublet)」。展示会で実際に服と、服作りの背景を伺うと「ファッションを読む」という体験が得られてくる。この素材は、どんな環境にヒントを得て作られたのか、この加工はいった何を表現しているのか。服の“向こう側”を読み聞かせてくれるブランドだ。

真っ白なレザーシャツは、後ろ身頃の丈が長く作られてドレッシーだが、素材はジビエのレザーを使用している。ジビエ(gibier)とはフランス語であり、狩猟によって、食材として捕獲された狩猟対象の野生の鳥獣、またはその肉を指す。その過程で生まれたレザーを衣服として用いたアイテムとなる。感謝を込めて、命を余すところなく使う。そんなメッセージ性が感じられる一着ではないだろうか。

左身頃の胸ポケットの下には、傷が見られる。通常なら衣服の素材としては用いないコンディション。しかし、ダブレットは大切に使う。傷ひとつで、価値が本当に損なわれるのだろうか。そんな問いが投げかけられたかのようだ。

ルックを見た時から、一体どんな作りをしているのかと気になったパンツ。ビッグサイズのウェストパンツは、通常のサイズ感のウェストが隠れていた。そのため、このパンツを穿くと、腰の両脇が浮いているフォルムを作り出していた。

コーヒー豆の袋をシャネルジャケット風に作ったアイテム。ボタンもよく見ると、高級メゾンをモチーフにした仕上がり。ラグジュアリーの象徴を、贅沢とは対極の素材で作る。ダブレットは世の中の価値観に別の角度から切り込み、見る者に別の視点を見せる。

MA-1をモチーフにしたミリタリージャケットも、ダブレットらしい仕掛けを素材の表面に披露。これはお米を模したものが、一粒一粒取り付けられていた。一瞬、真珠的に見えた時はラグジュアリーだが、お米と知った時にその感覚は失せていく。

コンセプチュアルな側面だけではない。このMA-1は、個人的に今回のコレクションで2番目に物欲を刺激されたアイテムだった(1番は後述)。着用してみると着丈は短いが、身幅は広く作られ、袖はギャザーによって有機的なフォルムを生み出している。シンプルな白いTシャツの上に羽織っても、王様の風格をもたらす。実際に店頭で手に取って欲しい服である。

形はシンプル。しかし、右身頃の胸ポケットからは金目鯛の頭が覗くシャツ。

この服の素材は、穴があいてしまい、金目鯛漁で使うことができなくなった網を原材料にして、ナイロンと混ぜることで作られている。ダブレットのオリジナル素材は、服とは関係ないと思える場所から始まっていく。

ショーのルックでも存在感のあったテーラードジャケット。左胸のポケットには人参が顔を覗かせていた(顔と言っていいのか、わからないが)。袖と裾には汚れ加工が施されている。これは農作業から着想を得た加工だった。服の中でもドレス濃度の高いテーラードジャケットに、農作業からヒントを得た汚れ加工を施す。このギャップに惹きつけられる。

ジャケットは肩幅に厚みを持たせた、硬派なシルエット。近年のダブレットのジャケットは、ダンディな形が魅力だ。

衿にコーデュロイを使用したワークジャケットが、今回最も物欲が刺激されたアイテムだった。まず、何より形がいい。古びた素材感と、繊維がゆらめく裾によって劣化した服に感じられるが、着用してみると立体感が際立ち、テーラードジャケットを思わす。そこに、野菜を撮影した写真を使用したフォト刺繍が、写実絵画的グラフィックを表現。チープでいてラグジュアリーなワークジャケットだと言えよう。

熱烈な古着好きであり、熱烈にリメイクが好きな人間が、愛情を持って仕上げたヴィンテージのカスタマイズウェア。そんな空想のストーリーを語りたくなる一着だ。

確かな服の完成度の上に成り立つコンセプチュアルなコレクション。ダブレットは、ファッションの奥深さと面白さを常に堪能させてくれる。服は時代を投影する役割も担う。そのことも改めて実感した最新コレクションだった。

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