素材と肌の関係は、とても大切だ。特に、春夏シーズンのように、肌と服が直接触れる機会が多くなる季節においては、素材の快適さが、そのまま着心地の良さにつながる。
全国の産地を巡り、時には数年単位でオリジナル素材の開発に挑む「ノノット(Nonnotte)」の杉原淳史。展示会場に掛かる服のすべてが、彼のこだわり抜かれた素材から生まれていた。入り口付近に見えたシャツやパンツは、物静かに、しかし確かな存在感を放っていた。

今季2026SSで注目したいのは、コレクションの半数をカットソーが占めていたこと。ノノットの素材は、いずれも肌あたりがやさしい。その中でも特に惹かれたのが、Super 120’sや140’sといった上質なウールを使ったカットソーだった。
一般的にウールは、素肌に着るには毛羽立ちが気になる素材。しかし杉原は、撚糸の段階で立ち上がる毛を巻き込む設計で糸を作り上げた。それによって、肌にやわらかく馴染むウールのカットソーが完成した。

薄手のウール100%カットソーは、優れた着心地だけでなく、自宅で洗濯が可能で手入れも簡単。ウール特有の消臭効果もあり、日常に寄り添う一着となっていた。
実際、ここ数年で私自身も、夏にサマーウールのパンツを選ぶことが増えている。さらっとした質感が、湿度の高い日本の夏にはちょうどいい。コットン100%のパンツは、汗をかくと肌にまとわりつくことがある。その不快感を避けるために、最近は合成繊維をブレンドした機能素材にも惹かれるようになった。
しかし、天然素材の中にも、そうしたまとわりつきから解放してくれる選択肢はある。ウールはまさにその代表格だろう。今季のノノットでは、素材の約9割にウールが使用されていた。


カットソーは、プルオーバー型のトップスだけにとどまらない。ショールカラージャケットやMA-1、カーディガンなど、ジャケット類にも展開されており、杉原がパリで学んだカッティングを活かした豊かなボリューム感と、静かなエレガンスが息づいていた。
カットソーが並ぶラックの反対側には、布帛アイテムが整然と並んでいた。

こちらもウールの存在感が強く、ウール100%だけでなく、ナイロンやシルクと掛け合わせた素材も並ぶ。異素材との組み合わせによって、ウールの表情がいっそう多彩になっていた。

特に目を引いたのが、うっすらとチェック柄が浮かび上がる生地。裏側にシルクでチェック柄を織り、表面のウールにその柄をにじませるように浮かび上がらせた、凝った構造のテキスタイルだった。


布帛アイテムの中で、最も印象に残ったのはシャツだ。ノノットのシャツは、一見するととてもシンプル。だが、パターンを見ると、ベーシックなシャツとは異なる構造が多く、着用すると大きなボリュームを感じるにもかかわらず、鏡に映る姿は不思議とすっきりして見える。

ウール製のストライプシャツは、落ち感と張りのバランスが絶妙で、美しいシルエットを描いていた。やや薄手の生地には、ごくわずかな透け感があり、そのわずかな“ささやき”のような透明性が、見た目にも涼しさを感じさせていた。

また、バスクシャツをあえて布帛で制作した一枚もあった。ピンク系のストライプが施され、夏のマリンスタイルにフェミニンな空気を加えていた。
ここまでウール素材のアイテムに多く触れてきたが、今季のコレクションで最も惹かれたのは、ノノットの定番生地であるヘビーブロードを使ったシャツだった。

写真では伝わりにくいが、このシャツの色はグリーン。軽やかで、生地の触り心地はナイロンのような質感をまとっている。実際にはナイロンではなく、ナイロン級に特別に高密度に織り上げることで目の詰まった表情と質感を表現しており、コットンゆえにナイロンにはないハリがある。そのハリが、ノノットの構築的なシルエットにぴたりとハマっていた。
着用すると、量感はあるが細く見える。そして何より惹かれたのは、前下がりの設計だ。私はシャツを第1ボタンまで留めて着ると、通常のシャツでは首元に軽い詰まりを感じることが多い。このヘビーブロードのシャツは、前下がりがやや深めに設定されており、首まわりに余裕が生まれる。そのため、ボタンをすべて留めても、首元に緊張感を感じずに済んだ。
シルエット、素材感、色味、着心地。すべてのバランスが整った、まさに“主役”になれるシャツだった。
ノノットは、決して声高に「新しさ」を叫ぶブランドではない。好きなものはそのままに、変化は控えめに、ささやかに。そんな服を求める人々のために、静かに寄り添うメンズブランドだ。
Instagram:@nonnotte_official