FEMININE STUDY #2 ポーリーン・デュジャンクールは、闇ではなく影を主張

AFFECTUS No.645
デザイナーを読む | FEMININE STUDY #2
ポーリーン・デュジャンクール

フェミニンは甘い。そう言い切れるほど、フェミニンは単純ではない。黒いレースや、影を含む透け感には時折、苦味が混じる。ポーリーン・デュジャンクール(Pauline Dujancourt)は、その苦味を隠さない。可愛さにも影がある。その影を好むか、好まないかは人それぞれだが、少なくとも私はデュジャンクールの影に惹かれた一人だった。

デュジャンクールを初めて見た時、頭に浮かんだのはシモーン・ロシャ(Simone Rocha)だった。「悪魔な妖精」と私が呼ぶ、怪しくも儚げなフェミニン。その姿と重なった。だが、いま改めてデュジャンクールのドレスやスカート、カーディガンを見てみると、ロシャよりもずっと大人びている。

▶︎ピュアな悪魔を演じるシモーン・ロシャ
ピュアな白が、妖しさを孕むとき。シモーン・ロシャが描く危ういフェミニン。

ニット、レース、薄手の布地が一体になったアイテムは、いまにも壊れそうな儚さをまとい、触れることをためらう服。そんな繊細な可愛さをさらに際立たせるのが、ほっそりとしたシルエットだった。

ロシャが作り出すは可愛さは、造形では幻想的な膨らみが主体になっている。一方、デュジャンクールも同じタイプの可愛さを作り出すのだが、造形は体のラインを拾っていく大人びたシルエットが主体だ。この違いによって、ロシャとデュジャンクールは、同じ文脈に位置しながらも枝葉が分かれるように、異なるイメージを発信している。

色はグレートーンと言うべき落ち着きが特徴で、色にメリハリをつけない。あえての選択に思える、曖昧な調子の色彩展開は、デュジャンクールをいっそう切なく見せる。もし、ピンクや白を主体にしたコレクションだったら、間違いなく王道のフェミニンが見られるはずのデザインだ。色使いが異なるだけで、ルックの印象がこんなにも変わるとは。服における色の重要性を改めて実感する。

シフォンのように柔らかく薄い布を、フリル化してたっぷり飾りつける。あるいは、ギャザーで手繰り寄せ、切り替えによってアクセントをつけてティアードのスカートやドレスに仕立てる。ドレープを多用し、優雅さを添えることも忘れない。柔らかなニットも、ノスタルジックな編み地でどこまでもガーリー。けれど、シックな色使いによって幼さを軽減する。

それらを形容するなら、「ダークなフェミニン」が最も近いだろうか。

▶︎リチャード・クインに闇を覗かれたい
美しい花柄が、恐怖で塗り替わる。リチャード・クインの暗い祝祭。

女性を可憐に見せる服づくりの技術と素材で、考えられるすべてを注ぎ込み、最後にイメージというフィニッシュでフェミニンの文脈を書き換える。それが、デュジャンクールのクリエイションだ。

街を歩けば、きっと幻想的に映るだろう服。だが明るさを抑えたスタイルは、都会的な佇まいを添える。そのムードを表すなら「モダン」だ。しかし、そのモダンには洗練とともに、わずかな妖艶さが混じっていた。デュジャンクールは、叫ぶような真似はしない。ダークなフェミニンという明快なビジョンを静かに主張する。

「可愛い」という言葉には甘さ、儚さ、可憐といったイメージが浮かび上がってくる。デュジャンクールは、そういった「フェミニン」の従来のイメージから離れたスタイルを制作している。甘いから影がないわけではない。フリルやシフォンのワンピースを纏う女性にも、影はあるはずだ。デュジャンクールはその真実に、ダークトーンという武器を用いて光を当てる。

淡くて優しく柔らかい、気品を伴う服に暗さがあってもいいはず。そんなシャツやスカートが欲しい女性、着たい女性はきっといるだろう。あえて影を選ぶ女性がいる。ピンクではなく、グレーを選ぶことで自分の内面をそっと映すような人たちが。彼女たちの希望にデュジャンクールは静かに応えていく。

〈了〉

▶︎今はパトゥがカワイイ
現代のカワイイは、境界を軽やかに越えていく。パトゥが発信するフェミニンとは?