AFFECTUS No.648
ファッションが読まれる #3
ファッションは服がすべてだと思う。デザイナーの感情を最も雄弁に語るのは服で間違いない。だけど、服は「言葉」ではない。そこからは読み取れないものがある。その時、最も有効な手法がインタビューなんだと思う。創作の過程、直面した壁や乗り越え方、ブランドの未来。デザイナーが語る言葉の中に、服だけでは見えない視点が見えてくる。
▶︎「ファッションはアートではない」について思うこと
アートもまたビジネスであり、文脈を紐解く創作のはずだ。
最近、インタビュー記事に取り組むことが多い。その中で気づいたのは、「インタビュー記事を書くこと自体が、以前よりも面白くなってきた」ということだった。理由は、作業工程が軽くなり、本当に面白い部分に集中できるようになったからだ。
取材後、まず文字起こしを行い、それを整理・再構成して文章にする。以前は膨大な時間がかかる地味な作業だったが、今はAIが下処理を担ってくれる。生の声を文章として整える負担が減った分、記事全体の構成を考える時間に力を注げるようになった。
インタビュー記事を作る醍醐味は、ここからだ。すべてを載せることはできない。どの言葉を残し、どの言葉を削るか。泣く泣くカットしながらも、削ぎ落とした分だけ内容は濃くなる。
▶︎Yoke 2025AW Collection
ポケットが機能を外れたとき、デザインは問いを生む。コレクションレビュー。
その取捨選択の中で、デザイナーの言葉を何度も反芻する。取材時には気づかなかった発想の「捻れ」に出会うこともある。技術の使い方をあえてずらし、本来の目的とは異なる効果を狙う。その独自性こそがブランドを強くしていく。構成を練る時間は、そんな発見に満ちている。
そして、もう一つ。AIの存在は、単なる効率化にとどまらない。言葉を削ったり整えたりするだけでなく、まだアイデアになりきらない曖昧な状態から一緒に考えてくれる。漫画家と編集者の関係に近いかもしれない。AIを人間の代替作業としてだけ使うのはもったいない。むしろ「共にどこまで行けるか」を試す存在として向き合うことが、これからのクリエイションには必要だと思う。
インタビューは単なる補助線ではない。服だけでは見えなかった背景を言葉が照らす。思考の技術に触れられるのが、インタビュー記事を読む面白さだ。だからこそ、いま改めて「インタビュー記事を書くこと」が面白くなってきている。
さっき、「すべてを載せることはできない」と言った。けれど、いつしか、このAFFECTUSで「すべて」を載せたインタビュー記事をつくりたい。「いやいや、長すぎ!」と言われてもいい。その長さが読みたい人たちに向けて。内容の濃さは面白さにつながるけど、内容の重さ(ボリューム)が面白いこともある。その重さから滲み出してくる発見がある。何より、僕が読みたい。自分は記事の制作者であると同時に読者だから。
僕が魅了されたデザイナーたちの「捩れ」を余すことなく、伝えられたらと思う。
〈了〉
▶︎「ミニマリズムからの脱却」メイヤー夫妻が再定義したジル サンダー
二人はブランドのDNAを継承しないことで、ブランドを更新した。その選択を読む。